研究課題
本研究課題は重粒子線特異的な生物応答を明らかにするため、DNA損傷修復欠損細胞を用いて細胞致死における放射線作用の役割を調べ、放射線生物学ならびに放射線化学の観点から機構解明を行う。初年度である平成23年度では、まず陽子線細胞照射を行うための照射場の作成ならびに無菌操作を行える実験環境の整備を整えた。続いて重粒子線を用いてCHO細胞、xrs6細胞(非相同末端結合関連遺伝子変異株)ならびに51D1細胞(相同組換え関連遺伝子変異株)の生存率曲線の作成を試み、各曲線から10%細胞生存率を得る線量(D10)を求めた。大気下および低酸素下でのD10比からOERを算出し、生物学的効果比(RBE)はX線を標準放射線として、X線のD10に対する他の粒子線のD10との比から算出した。OERやRBEを線エネルギー付与(LET)依存的に調べると、CHO細胞においては線エネルギー付与LETの増加とともにRBE値は上昇しLET 200 keV/micro meter付近に最大ピーク値が現われ、大気下および低酸素下で同じ傾向を示した。しかし、低酸素下でのRBE値の方が大気下よりも大きい値であった。OER値はLETの増加とともに減少し、200 keV/micro meter付近で1.2となった。xrs6細胞でも同様にLET-RBE,OER曲線を調べると、高LET領域においてピーク値を示さず、それは大気下でも低酸素下でも同じような傾向を示した。また、51D1細胞ではCHO細胞やxrs6細胞よりも小さいOER値を全てのLETポイントで示した。これらの結果より、重粒子線特異的な大RBEはDNA損傷修復機構の一つである非相同末端結合の有無が関与し、さらに小OERには非相同末端結合の有無が関与していることが明らかになり、重粒子線特異的な生物応答にはこれら二つのDNA損傷修復機構が深く関与していることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
目的としていた陽子線照射における実験環境整備は整い、細胞照射が可能となった。しかし、ビームタイムの確保が難しく、予定していた細胞実験の半分が行うことができなかった。しかし、重粒子線を用いた実験では4つの異なる核種を用いて3つの細胞株の放射線感受性を明らかにすることができ、予定していた全ての実験が完了した。
平成24年度以降は陽子線照射における放射線感受性を明らかにし、LET-RBE曲線を作成するための標準放射線として取り扱えるように準備する。また、重粒子線を用いた実験ではラジカル捕捉剤であるDMSOを用いて、放射線の直接作用と間接作用が細胞致死機序にどのように関わっているかを調べ、重粒子線特異的な生物応答と放射線の作用の関係を明らかにしていく。
平成24年度は培養細胞を用いた実験を行うための試薬、プラスチック消耗品を購入するとともに、低酸素実験を行うための高純度ガスの購入を予定している。さらに昨年度得られた研究成果を国内・外で発表を行うための旅費等を計上している。また、一部のデータを学会誌へ投稿するための費用も計上した。
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