研究課題
本研究目的は、従来は困難であった、肝における放射線照射域を早期にかつ累積線量が少ない場合でも画像的に確認する手法の確立である。超常磁性酸化鉄製剤(SPIO)による造影MRIを用い、一般的には照射後にSPIOを投与するが、我々は照射前にSPIOを投与した。以下に研究期間全体を通じて実施した研究の成果を示す。既存の動物用9.4Tesla装置を用い、まずラットへのSPIO投与10分後にT2*強調MRIを撮影し、肝の信号低下を確認した。4時間後、ラットの右上腹部に単回のX線照射を行った。同部以外は鉛板にて遮蔽し、照射線量は0、50、70Gyの3群とした。照射2、4、7日後にT2*強調MRIを撮影し、照射域と非照射域の肝信号変化を測定した。照射7日後、肝を摘出し、組織学的検索を行った。実験の結果、50または70Gyの群では照射域と非照射域に信号回復の差を認め、0Gyの群では信号回復の差を認めなかった。摘出肝において、放射線肝障害を示唆する組織学的所見はなかったが、クッパー細胞(KC)への鉄沈着数は、照射域の方が非照射域よりも多かった。最終年度において、0Gyの群から摘出した肝の組織学的検索を行い、50または70Gyの照射域に比較して0Gyの群におけるKCへの鉄沈着は非常に少ないことが判明した。SPIOはKCに貪食され、T2*強調MRIでの肝信号を低下させる。正常ラットでは7日後に肝信号がほぼ回復し、信号回復速度がSPIOの分解過程を反映すると考えられる。本研究では、照射域の信号回復が非照射域よりも遅れたため、照射によりKCが障害されSPIOを分解する機能が低下し信号回復に差が生じたことが推測でき、KCへの鉄沈着数の差が、その推測の裏付けとなった。ただし、本実験で認められた照射域と非照射域の信号回復の差は予想以上に軽微であり、本手法に何らかの改良を加えないと臨床応用は難しいと判定した。
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Magnetic resonance materials in physics, biology, and medicine
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10.1007/s10334-012-0354-3