Fluoropyrimidine(5-FU)は乳癌薬物療法におけるkey drugであり、その標的酵素であるチミジル酸合成酵素(TS)の過剰発現は5-FU耐性機序の一つとして考えられている。研究者らはTS発現がPI3K/Akt/mTOR経路により調整されていることに着目し、その上流にあたるHER2標的療法によるTS抑制および5-FU療法の抗腫瘍効果増強について検討を行った。HER2陽性乳がん細胞株であるSkBr3を対象とした基礎的検討においてHER2標的療法薬であるtrastuzumabおよびlapatinib投与によりTS発現およびTS mRNAが抑制され(Western blotting、RT-PCR)、5-FUとの併用療法において相加的な抗腫瘍効果の増強を認めた。一方、HER2標的療法にde novo耐性を有するHCC1569およびtrastuzumab長期曝露して樹立したtrastuzumab-resistant SkBr3においてTS抑制効果は認められず、5-FUの併用効果は認められなかった。その耐性機序としてPI3K/Akt/mTOR経路の活性化、HER2 internalizationの亢進、HER3経路活性化などが関与することを確認した。研究者は以上の所見からTSを標的としたHER2陽性乳がん治療はHER2標的療法感受性症例のみに有効であると結論し、耐性症例についてはPI3K/Akt/mTOR経路の阻害剤やpertuzumab、T-DM1などの異なる機序を有するHER2標的治療が有望であると考えた。研究者らはこれらの検討において、HER2を含む二量体発現がtrastuzumab感受性に深く関与することを明らかとしえたので、学会にて発表を行った。
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