生体肝移植では肝グラフト血行動態が移植後の肝機能に大きく影響を与える。当施設で施行した肝移植例での検討では、肝グラフト移植後の門脈圧が亢進している患者の予後は有意に不良であった。さらに術終了時門脈圧と混合リンパ球反応を用いた検討では、門脈圧亢進群は門脈圧非亢進群と比較し、術後のCD8T細胞の抗ドナー反応および急性拒絶発生率が有意に高く(P<0.001及びP<0.05)、肝移植後門脈圧亢進により拒絶が惹起されている可能性が示唆された。 そこで我々は機序解明の目的で、70%肝切除マウスを用いた門脈圧亢進モデルを確立した。肝切後3日目に肝構成細胞をstimulatorとして同種リンパ球混合試験を行ったところ、肝切群は無処置群と比べT細胞の有意な同種反応亢進を認めた(p<0.05)。一方、予めシャントを作成した肝切群では同種反応の亢進は認めず、門脈圧亢進による拒絶惹起がマウスモデルでも示された。肝臓は、他の臓器と比べ免疫寛容を誘導しやすい臓器として知られているが、その一機序として肝類洞内皮細胞が、クラスII抗原や副刺激分子を表出し抗原提示を行うことでドナー抗原反応性T細胞を寛容化し、拒絶反応を抑制する事が明らかとなっている。そこで上述の70%肝切除マウスにおける肝切後3日目の肝類洞内皮細胞のフェノタイプ解析を行ったところ、肝切群では肝類洞細胞のクラスII表出の有意な低下(p<0.01)を認めたのに対し、シャント肝切群では有意な低下を認めなかった。一方、肝樹状細胞は肝切群でもフェノタイプの有意な変化を認めなかった。この事よりシアストレス下では類同内皮細胞がその抗原提示能を喪失し、結果、肝臓の同種反応性T細胞に対する免疫寛容性が低下し拒絶反応が惹起されることが示唆された。 これらの結果より、肝移植後の門脈圧コントロールは肝由来免疫寛容性保持および拒絶反応抑制に重要と考えられる。
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