研究課題/領域番号 |
23791496
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
有馬 好美 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (20309751)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 癌 / 再発 / 転移 / EMT / 乳癌幹細胞 |
研究概要 |
上皮間葉転換(EMT)は癌の浸潤・転移のプロセスに関与することが示唆されている。また、癌組織は癌幹細胞を起点として構築され、癌幹細胞は抗癌剤や放射線などの治療に抵抗性を示し、再発の原因となることが示唆されている。近年、EMTと癌幹細胞は生物学的に密接な関係があることが乳癌細胞を用いた解析で示されている。我々はこれまでに、乳癌細胞株において癌抑制遺伝子産物であるRbタンパク質の発現をRNA干渉法により抑制するとEMTが誘導されることを見出している。Rb不活化により誘導されるEMTシグナルが、乳癌細胞の再発・転移に貢献するかを個体レベルで明らかにし、さらにEMTシグナル阻害剤の乳癌幹細胞への作用および乳癌の再発機構の分子背景を明らかにすることを目的として本研究を行っている。当該年度においては、Rb不活化の下流でEMT誘導転写因子ZEBが乳癌細胞の生存や浸潤に関与することを明らかにした。RNA干渉法によりRb陰性乳癌細胞のZEBの発現を抑制すると、細胞が上皮様に変化し増殖能および浸潤能が低下したことから、ZEBが乳癌の悪性化を決定付ける因子の一つであり治療の標的となりうると考え、ZEBの発現を抑制する薬剤を探索するために阻害剤スクリーニングを行った。いくつかのZEB阻害剤を得ることができ、その一つはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)に対する阻害剤であり、免疫不全マウスに同所移植したヒト乳癌細胞の増殖を抑制することができた。また、Rb陰性乳癌細胞において、細胞内CDKインヒビターであるp16の発現を抑制し、乳癌幹細胞表面マーカーCD44およびCD24の発現を確認したところ、CD44陽性・CD24陰性細胞の割合が増加し、乳癌幹細胞の増加が示唆された。さらに、p16陽性細胞と比較して抗癌剤に対する感受性が低下することがわかった。これらの成果をそれぞれまとめ、論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rb不活化によって誘導されるEMTシグナルがZEBという因子を介していることを明らかにし、さらにZEBに対する阻害剤を同定し、マウスに移植した腫瘍に対して抗腫瘍効果を確認することができた。EMTシグナル阻害剤の乳癌幹細胞への作用および乳癌の再発・転移機構の分子背景を明らかにすることという目的に対して、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
乳癌細胞にEMTシグナル阻害剤を添加し、乳癌幹細胞表面マーカー(CD44およびCD24)の発現の変化を解析し、さらに、分離した乳癌幹細胞にEMTシグナル阻害剤を添加し癌幹細胞としての形質変化を解析する。また、EMTシグナル阻害剤が乳癌の再発・転移を個体レベルで抑制するか、乳癌転移マウスモデルを用いて検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
主にマウスモデルを用いての解析を行うため、動物・飼料代、実験用材料・試薬の消耗品に主な研究費を使用する。また、日本乳癌学会学術総会および日本癌学会学術総会、日本癌治療学会学術集会、日本分子生物学年会、米国癌研究会議(AACR)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)等において、研究成果を発表するために旅費として使用する計画である。
|