上皮間葉転換(EMT)は、癌の浸潤・転移のプロセスに関与することが示唆されている。また、癌組織は癌幹細胞を起点として構築され、癌幹細胞は抗癌剤や放射線などの治療に抵抗性を示し、再発の原因となることが示唆されている。近年、EMTと癌幹細胞は生物学的に密接な関係があることが乳癌細胞を用いた解析で示されている。我々はこれまでに、乳癌細胞株において癌抑制遺伝子産物であるRbタンパク質の発現をRNA干渉法により抑制すると、EMT誘導転写因子の一つであるZEBを介してEMTが誘導されることを見出した。ZEBの発現を抑制する薬剤を探索するために阻害剤スクリーニングを行い、いくつかのZEB阻害剤を得ることができた。その一つはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)に対する阻害剤であり、Rb不活化型の乳癌細胞株にCDKインヒビターを加えると、上皮マーカーの発現が増加し、癌細胞の増殖能および浸潤能が低下した。また、Rb陰性乳癌細胞において、細胞内在CDKインヒビターであるp16の発現を抑制し、乳癌幹細胞表面マーカーの発現を調べたところ、CD44+/CD24-で示される乳癌幹細胞の割合が増加した。細胞周期の進行を制御するCDK4/6-Rb-p16経路は、EMTシグナルや癌幹細胞の性質にも関与していることがわかり、癌の再発や転移における重要な経路である可能性が示された。CDK4/6インヒビターはこれらに複合的に作用する有効な治療薬となりうることが示唆された。
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