研究課題/領域番号 |
23791509
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
仲吉 孝晴 久留米大学, 医学部, 助教 (90511824)
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キーワード | 血管内皮前駆細胞 / アポトーシス / 酸化ストレス / FOXO |
研究概要 |
重症虚血肢に血管内皮前駆細胞(EPC)を投与する血管新生療法は、動脈硬化危険因子が重責した患者では奏功しない場合が多く、原因として投与EPCが虚血部位から喪失することが報告されている。本研究ではまずラット虚血肢では非虚血肢に比べ投与EPCのアポトーシス率が高く、その理由として虚血肢では虚血による酸化ストレスが高いことが影響していることを確認した。さらにin vitroにおいて、酸化ストレス高値下では定常状態に比べEPCのFOXO4発現が高いこともウェスタンブロット法にて示された。FOXO4はアポトーシスへの関与が示されているため、EPC内のFOXO4の抑制が酸化ストレスによるEPCのアポトーシスを抑制するとの仮説をたてた。我々のグループが既に最適化したマグネトフェクション法によりFOXO4のsiRNAをEPC内に導入し、そのノックダウンに成功した。さらにTUNEL染色によりアポトーシス耐性であることを確認した。そのEPC内においてはcaspase-3やBimELの発現が低下しており、これらのタンパク発現を抑制することでアポトーシス耐性を有することを明らかとした。またこのマグネトフェクションによるFOXO4-siRNA導入はEPCの分泌能や表現型には影響を及ぼさないことも確認することができた。続いて、ラット虚血肢にこのFOXO4-siRNA導入EPCを筋肉内投与することでコントロールEPC投与群に比し有意に血管新生効果を増強することが、レーザードップラー法による血流評価およびCD34染色による毛細血管密度評価によって明らかとなった。以上、当該年度は①下肢虚血部位における酸化ストレスとEPCアポトーシスの関連、②FOXO4-siRNA導入によるアポトーシス耐性EPCの作製および③アポトーシス耐性EPCの筋肉内投与における血管新生能の向上という計画を達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、アポトーシス耐性を付与したEPCを作製することで虚血部位に効果的に集積させ、血管新生効率を向上させることである。この目的を達成するために、平成23年度はin vitroにおいて以下の2点を実施した。そのため平成24年度はin vivoの計画3を目標とした。計画1.虚血組織における酸化ストレスとEPC機能の評価、計画2.アポトーシス耐性EPCの作製、計画3.アポトーシス耐性EPCの下肢虚血筋内投与による血管新生能の評価を行う。免疫不全ラット(ヌードラット)の大腿動脈焼灼により下肢虚血を作製し、対側をコントロールとし、虚血作製24時間後にFOXO4-siRNAを導入したアポトーシス耐性 EPCを筋肉的に投与す以下の項目を検討した。 1、筋注EPCのアポトーシス評価:EPCを予め蛍光Dilでラベリングし、筋肉内投与したEPCのアポトーシス率をTUNEL染色により定量評価したところ、虚血肢では非虚血肢に比べ明らかにアポトーシスが亢進していた。 2、血流評価:EPC投与14日後にレーザードップラー血流測定器で虚血改善効果を定量評価したところ、FOXO4 -siRNA導入EPCはnegative-siRNA導入EPCより明らかに血流が改善していた。 3、組織解析:CD34染色により毛細血管密度を評価しても、同様にFOXO4-siRNA導入EPCは虚血筋肉内における毛細血管密度が明らかに亢進していた。 4、アポトーシス評価:上記のごとくFOXO4-siRNA導入EPCを蛍光Dilでラベリングし、TUNEL染色で比較したがやはり同EPCのアポトーシスは抑制されていた。以上のごとく患者末梢血単核球由来EPCのFOXO4-siRNA導入はin vivoにおける血管新生能力評価については当初の実験計画どおり順調に経過している。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ順調に計画通り進行しているため引き続き計画1,2,3について実施するが、本年度はより詳細にFOXO4-siRNA EPC筋肉内投与における血管新生能改善効果のメカニズムについて検討する。 具体的にはFOXO4-siRNA EPCの表現型および分泌能評価を行う。フローサイトメトリー法を用いて培養EPCの表面抗原マーカーであるCD133、CD34、CD31、KDRの変化をFOXO4ノックダウン前後で比較する。次にELISA法を用いてEPC培養上清液中の血管新生関連タンパク(VEGF、b-FGF、SDF-1α、IGF-1)を測定し、そこで有意差が認められない場合は、BioPlex法にて網羅的に発現タンパクの評価を行う。同時にnegative control siRNA導入EPC群とコントロールEPC群でも評価比較を行い、マグネトフェクション法によるsiRNA導入がEPCに影響を及ぼさないことを確認する。 以上の研究によりラット下肢虚血モデルにおけるFOXO4-siRNA導入EPCによるアポトーシス抑制効果のメカニズムがより詳細に検証できれば、臨床における単核球を用いた血管新生療法の更なる発展に寄与する知見が得られると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度において次年度使用額が生じた理由としては計画1.虚血組織における酸化ストレスとEPC機能の評価目的にて、実際の骨髄単核球移植の際に得られる動脈硬化危険因子を有した患者自身の骨髄液および切断肢のサンプルを使用するのだが、その単核球移植術が少ないためサンプル収集が平成23年度同様まだ十分量得られていないことがあげられる。そのため当初の予定の骨髄液中・虚血組織内の酸化ストレスマーカー評価、骨髄単核球内のFOXO4発現や核内局在の評価で使用予定のELISA試薬、蛍光染色抗体などを平成25年度に繰り越し請求する。 なおサンプル収集が十分でない状況は患者の同意が得られない場合はもちろん、高度先進医療である血管新生療法には厳格な適応基準がありそれに適合しない症例が少なくないこと、また対照群としてのバージャー病患者が特に減少していることなどが理由として考えられる。しかし、当機関では平成22年に立ち上げたフットケアチームがますます活性化しており、難知性虚血性潰瘍を有する重症虚血肢患者も九州全域より紹介されるようになってきており、その数も増加している。その重症度も増すことにより、no optionの症例とともに今後血管新生療法の重要性は増加することが予想され、サンプル数を増やすことが可能と考える。 さらに本研究では、患者検体による臨床研究と、アポトーシス耐性・磁気化EPCの基礎研究を並行して実施するが、両者は実際の実験上では独立しているため現段階でin vitroの基礎研究進展になんら影響は及んでない。平成25年度の基礎研究では下肢虚血ラットモデルでの細胞効果およびメカニズムの検証を行うため、前年までの細胞培養関連試薬、siRNA導入試薬に加え、免疫不全ラットおよび健常ラットの購入飼育費や手術器具購入費、細胞染色のための試薬や各種抗体の購入費を計上する。
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