研究課題/領域番号 |
23791512
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 洋毅 東北大学, 大学病院, 助教 (30422124)
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キーワード | 二重特異性抗体 / 上皮増殖因子受容体 / 胆道癌 |
研究概要 |
①遺伝子工学的手法を用いて上皮増殖因子受容体(EGFR)ならびにCD3の両者に結合する二重特異性人工抗体を作製し,収量を増加させるための培養の条件などの検討を行なった. ②この二重特異性抗体,既に市販されている大腸癌治療抗体であるcetuximab, panitumumab(いずれも抗EGFR抗体),diabody型二重特異性抗体(抗EGFR x 抗CD3)を用いて,胆道癌細胞株の増殖抑制試験を行なった.胆道癌細胞株においても,EGFRの阻害により,癌細胞の増殖抑制が可能であることをin vitro, in vivoで確認した. ③胆道癌におけるKRAS遺伝子およびBRAF遺伝子の変異の割合を求めることは,この二重特異性抗体を使用する上でも重要である.なぜなら,大腸癌の実臨床においては,KRASおよびBRAF遺伝子の変異症例では既存の抗EGFR抗体の効果が全くないことが知られているからである.そこで,当科における胆道癌切除標本を利用して,KRASおよびBRAF遺伝子の変異率を求めた. ④上述の4種類の抗体を用いて,EGFRシグナルの阻害,すなわち胆道癌細胞株におけるEGFRのリン酸化を阻害するかどうかをin vitroで確認した. ⑤癌細胞増殖抑制効果の作用機序を解明するために,抗体を添加した癌細胞株について細胞周期の変化,アポトーシスが誘導されているかどうかについての検討を行なった. ⑥KRAS遺伝子変異の有無による治療効果の差を比較することを目的として,免疫不全マウスにヒト胆管癌組織を移植し,治療モデルの確立を目指し,移植の条件設定を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
二重特異性抗体の収量はあまり上がらず,市販抗体とくらべて抗体量を確保するのが難しく,実験の律速段階となる. in vitro, in vivoいずれにおいても胆管癌細胞株と抗体の組み合わせで癌細胞の増殖抑制効果が確認された.増殖作用の抑制効果としては市販の交代薬よりはやや弱く,diabody型二重特異性交代よりは強い印象があるが,細胞株によっての結果のばらつきがあり,これらの原因については解明出来ていない. ヒト胆道癌の切除標本を用いたKRAS, BRAF遺伝子の変異の頻度については,順調に症例集積を積み重ねており,貴重なデータとなると思われる. EGFRのリン酸化が阻害されていることを示すことができ,抗体の作用の一つである「EGFRシグナルの阻害効果」を持つことについては確認されたと考える. 細胞周期の変化については,データのばらつきも多く,示せていない.ヒト胆管癌の移植モデルは,なかなか生着せず,移植部位を換えて生着率が向上するかどうかを検討している状態であり,治療モデルの作製までには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
細胞株に対する細胞周期の変化,アポトーシスの誘導,抗癌剤との併用による相乗効果を示す. ヒト胆管癌組織のKRASおよびBRAF遺伝子変異について,症例数を増やして,日本人の胆道癌における変異率を(可能であれば肝内胆管癌,肝外胆管癌,胆嚢癌,乳頭部癌の部位別に)データとして集積する. ヒト胆管癌組織を免疫不全マウスに移植し,治療モデルを作製,実際のヒト胆管癌組織に対する治療効果を確認する.この際に,effector細胞であるT-LAK細胞やPBMCを同時に移植した場合や,ヒト血漿を注射した場合,何も移植しない場合についての治療効果の差を検討し,二重特異性交代の「架橋による癌細胞擦傷効果」「Fc領域によるADCC誘導効果」「CDC誘導効果」について検証を行なう予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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