研究概要 |
2010年12月以降の膵切除症例を起点に通常型膵癌症例を抽出した。平成23年度は40例のMSI解析を行った。平成24年度は引き続き研究母集団を拡大、さらに60例の解析を進めた。当科で切除された通常型膵癌患者検体のうち、60例でマイクロサテライト解析に必要と思われる癌部分・正常(膵)組織部分について、病理診断に使用した以外のパラフィン包埋組織を入手して薄切切片を作成した。癌細胞及び正常細胞それぞれの切片からDNA抽出キットを使用してDNAを抽出し精製した。23年度と同様過去文献から推奨される解析のための5種類のマイクロサテライト領域(MSIマーカー:BAT25, BAT26, D17S250, D2S123, D5S346)プライマーを作成し上記で得られたDNAを鋳型としてPCR法で増幅した。それらをオートシークエンサーで解析し遺伝子配列の同定とピークパターンを比較してマイクロサテライト不安定性の陽陰性を判定した。判定基準は陽性マーカー数がMSS(MS stable)が0、MSI-L(MSI-Low)が1、MSI-H(MSI-High)が2以上、である。結果は60例の解析で全てが安定(MSS)でありマイクロサテライト不安定性を示す例はこの中には存在しなかった。MSI陽性膵癌は全体の5-10%存在するとされるが、現時点まででMSI陽性膵癌は検出されていない。 なお、本研究においては、解析に使用した症例の病歴、検査所見、画像所見、病理所見などをデータベース化する作業も進めており、「予後良好な膵癌」との本研究の目的に合致して、早期膵癌(PanIN)の症例を臨床データとして解析しつつある。これに関しても解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
MSI陽性膵癌は全体の5-10%とされているが、当科の通常型膵癌症例を検索した限りでは現時点まででMSI陽性症例は確認されなかった。検索方法の再検討をしつつ、MSI陽性膵癌を検出できるよう追加検索を行う方針で臨みたい。また、膵癌症例の病理学的検索の過程で、派生的に稀な早期膵癌(PanIN)切除症例が発見された。それらは本研究の主目的の一つである「予後良好な膵癌」のカテゴリーに入るので、独立させて解析し、研究成果の一つとしたいと考えている。MSI陽性例が発見された場合は前回と同様以下の通り:(1)MSI陽性膵癌組織での免疫担当細胞の反応性、及びフレームシフト変異由来ペプチドに対する細胞障害性T細胞の誘導を試みる(2)膵癌組織に対するTILの評価:プレパラートを抗CD3マウスモノクローナル抗体で染色しT細胞の計測、MSI陽性膵癌群と同陰性膵癌群におけるT細胞浸潤レベルの差異を検証、抗CD4, CD8抗体等での同様な染色も行いT細胞サブセットの動態も検討する。(3)MSI陽性・陰性膵癌患者から採取した末梢血単核球を分離し、患者樹状細胞のFACS解析による表面抗原の同定を行う。(4)コンピュータソフトによるフレームシフト変異由来エピトープペプチドの予測と合成:MSI陽性癌で多い塩基繰り返し配列(にて人為的に1塩基あるいは2塩基フレームシフト変異させたHLA-A2, A24に特異的なコンセンサス配列をコンピュータにて予測する(5)細胞障害性T細胞(Cytotoxic T lymphocytes: CTL)の誘導:分離PBMC を上記合成フレームシフト変異由来合成ペプチドで刺激後,IL-7存在下で培養しresponder 細胞とする。同様にペプチド刺激した自己PBMCからstimulator 細胞を作成、共培養してCTLを誘導する。CTLの腫瘍細胞に対する細胞障害活性を解析する。
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