研究課題/領域番号 |
23791516
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保木 知 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (50571410)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 肝臓外科学 / 術後肝再生 |
研究概要 |
阻血再還流(I/R)障害肝における肝再生促進因子に対する不応性発現の機序を解明するために、I/R障害肝の70%肝切除マウスモデルを作成。肝切除96時間後の残肝重量にて肝切除後の肝再生を評価すると、正常肝に比べて軽度障害肝では肝再生は亢進したが、高度障害肝では肝再生は著名に抑制された。PCNA免疫染色にて肝細胞増殖シグナルを評価したところ、正常肝に比べて軽度障害肝ではPCNA発現が増強していたが、高度障害肝ではPCNA発現が著名に減弱していた。しかし、肝再生促進因子として知られるCXC chemokine発現は高度障害肝で著名に増加しており、高度障害肝における肝再生促進因子に対する不応性の発現が示唆された。肝切除後の肝再生にはCXC chemokineによるNF-kappaB活性亢進の関与が必要なため、当モデルでのNF-kappaB活性を評価したところ、正常肝に比べて軽度障害肝では活性の亢進を認めたが、高度障害肝では活性の著名な抑制を認めた。我々は以前、I/R障害肝におけるNF-kappaB活性亢進にはPin1とNF-kappaB-p65との複合体形成が必要であることを報告した。よって、当モデルでのPin1発現を評価すると、正常肝に比べて軽度障害肝ではPin1発現は維持されていたが、高度障害肝ではPin1発現は著名に低下していた。また、Pin1-NF-kappaB-p65複合体の発現は、正常肝に比べて軽度障害肝で亢進していたが、高度障害肝では著名に抑制されていた。さらにはCXCR1&2 antagonistであるRepaertaxinを軽度障害肝モデルに投与したところ、軽度障害肝における肝再生促進作用は消失した。よって、軽度障害肝におけるCXC chemokine発現増強がPin1を介したNF-kappaB活性亢進を促して、肝切除後の肝再生を促進させることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究目的における仮定がおおむね正しいことが示されたため、今後の研究において大きな方針変換の必要性が乏しい。平成23年度に施行予定であった研究内容の結果をおおむね評価しえたため、平成23年度の積み残しなく、平成24年度の研究を施行可能である。過去の自らの論文発表した研究結果を元にそれを発展させて施行している研究のため、着実に遂行する背景が十分に確立されている。よって、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に動物実験にて証明したI/R障害肝の肝再生遅延機序を細胞実験にて確認する。正常肝細胞株であるAML-12 cellをH2O2で刺激して、I/R障害肝に類似した酸化ストレス障害肝細胞モデルを作成。それを肝細胞増殖因子で刺激し、DNAレベルでの増殖シグナル発現をBrdU incorporation assayにて評価する。Preliminary dataでは、障害肝細胞での増殖促進因子に対する不応性が確認されている。障害肝細胞におけるPin1、NF-kappaB-p65、IkappaB-alpha及び、さまざまな肝細胞増殖因子の肝細胞内発現をwestern blot、ELISA、リアルタイムPCR等で測定、NF-kappaBやSTAT3の活性化をEMSAで評価し、障害肝細胞における肝再生促進因子に対する不応性発現の分子生物学的機序を肝細胞レベルで追求する。さらに、Pin1に特異的なsiRNAをretrovirus vectorを用いて肝細胞に定常的に発現させることによりPin1をknock-downした肝細胞を作成。このPin1発現欠損肝細胞を肝細胞増殖因子で刺激して、細胞増殖シグナル発現及びNF-kappaBの活性亢進を評価することにより、肝細胞増殖におけるPin1の必要性を検討する。そしてNF-kappaB inhibitorであるBAY11-7085を投与してNF-kappaBの肝細胞増殖への関与を検討する。また、以前より我々が肝I/R障害軽減作用を報告してきた諸因子 (低体温、HSP70、ischemic preconditioning、PPAR-gammaなど) が、肝I/R障害時のPin1発現を維持し、NF-kappaBの活性化を介して肝再生を促進しうるかを究明し、拡大肝切除術後の肝I/R障害に起因する肝再生抑制に対する治療法としての可能性を追及する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
抗体各種及びELISAキット:10万円、Western blot関連製品:20万円、リアルタイムPCR関連製品:10万円、EMSA関連製品:10万円、Bio-PlexTM 2000関連製品:10万円、免疫染色用製品:10万円、細胞培養関連製品:20万円、siRNA transfection関連製品:10万円、Cell proliferation assay kit:10万円、Pin1強発現モデル関連製品:10万円。国内旅費:10万円、海外旅費:10万円、謝金等:10万円、研究成果投稿料:10万円。
|