研究課題
平成23年度の実施計画は、脈管分岐形態、血行動態、区域解剖、区域間境界についての基礎データを集積し、肝内脈管の3次元解剖の検討を行うことであった。このうち、脈管解剖、区域解剖、区域間境界については、研究開始前からの、生体肝移植ドナー候補の正常肝に関する脈管解剖のデータ集積の実績もあり、順調にデータ集積を進められた。一方で、術中の、肝授動などに伴う脈管の位置変化については、10例で術中エコーによる検討を行い、位置変化の定量化、画像での可視化に向けて様々な課題を伴うことが判明した。術中リアルタイムで得られる画像は、超音波のみとなるが、超音波の3次元構築画像は、解像度が低く、特に術前のCT画像と比較すると、本研究で目的としている肝内二次分枝以降レベルの末梢脈管の正確な画像構築は大きく劣ってしまう。また、リアルタイムの解剖学的位置関係と、術前3次元画像との‘ずれ‘の解析においても、肝授動に伴う位置変化は、二次元的な回転のみにとどまらず、3次元的な動き、用手的圧排に伴う変形や血管内腔の狭小化なども考慮に入れる必要があり、当初の予想以上に、ズレの定量化、画像化は困難であることが判明した。今後も引き続き、術中エコー画像を集積し、術前画像との比較を行っていく必要がある。また、‘ずれ‘の解析のために、3次元画像同士を比較、定量化することは難しいが、区域、亜区域切除症例を中心に、術中エコーガイド下に特定門脈支配領域を色素注入することで染色される肝表面面積を定量化することは可能であるため、これを術前シミュレーション結果と比較することで、切除領域同定の精度を解析する予定としている。
3: やや遅れている
肝内脈管解剖に関する基礎的データの集積は順調である。一方で、術中の肝の動的位置変化に応じた脈管3次元画像のデータ集積に難渋している。第一に、術中画像は、唯一術中超音波に依存するが、3次元画像構築となると、術前CT画像と比較して格段に解像度が劣り、正確な区域、亜区域切除をシミュレーションするには不十分な画像構築しかできない。第二に、術中の肝授動等に伴う脈管解剖の変化は、単純な二次元的な回転のみにとどまらず、3次元的な捻じれ、肝を授動する術者の用手的な力の大きさにま依存する、肝全体の回転軸と異なる脈管の湾曲、圧排狭小化の条件も伴い、術前のin situの状態での画像と同期させることがいまだ困難である。今後も、術中エコーによる肝授動中の脈管解剖画像データの集積を継続し、術前画像といかに対応させるか、評価を行っていく必要がある。
術中の肝臓位置変化を踏まえた、脈管解剖のリアルタイムの3次元画像構築が目標であるが、昨年度の研究により、超音波画像の解像度の限界、単純な肝臓の回転以外の要素まで加えて、画像を同期させることが必要であることが判明した。術中エコーによる、脈管解剖のin situの位置からの変化に関する画像データは引き続き集積を継続する必要がある。今年度の実施計画は、術野でシミュレーション画像が閲覧できるようになった段階で、シミュレーション画像と術野とのずれの有無とその程度について検討を行うことである。リアルタイムの3次元画像を構築することはかなり困難と予想される。しかしながら、解剖学的区域、亜区域切除の症例において通常行う切除領域門脈枝への色素注入による、肝表面染色領域の定量化データを導くことは可能で、これを術前シミュレーションでの切除領域と比較し、術中の切除範囲同定の正確性を評価する。これを基礎データとし、次の段階である、術中リアルタイム画像と実際の術野とのずれについて検討を行う予定である。
術中の肝臓の動きの定量化のために、複数台のビデオカメラによる撮影が必要となり、昨年度は、施設内に備品として備わっていたカメラを使用したが、追加で購入する必要が出てくる可能性がある。データ集積、管理に必要なメディアなども、物品費として使用予定である。また、これまでの中間データを学会などで発表していく予定であり、学会参加に伴う費用を旅費として、また、データ集積の援助を得るにあたっての費用を謝金として使用予定である。
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