研究概要 |
膵癌は間質細胞の増生が特徴的であり、近年間質細胞が膵癌の悪性度を高めているという報告がある。これまで腫瘍細胞自体に関する研究が主に進められてきたが、新たな治療戦略開発を目的として、本研究では間質細胞におけるセネセンスという非可逆的分裂停止現象に着目した。膵癌間質細胞ではセネセンスに陥る細胞は極めて稀であり、その結果desmoplasiaという過剰間質増生が誘導され、抗癌剤が腫瘍に到達しにくいことで抗癌剤耐性を生じている可能性がある。そこで膵癌間質細胞におけるセネセンス制御を解明する事により、新しい膵癌治療戦略を立案した。 膵星細胞のセネセンス誘導と、組織内の間葉系幹細胞同定を目標とした新規特異的表面抗原の検索を行い膵癌患者より得られた手術切除標本を用いて、ヒト膵星細胞株を30株以上作成した。作成された細胞株は、膵星細胞の特徴とされるMyofibroblast様の形態を呈し、α-SMAが陽性であることを確認した。また、これら膵星細胞において間葉系幹細胞のマーカーとされる表面抗原の解析を行い、膵星細胞内にsubpopulationが存在すること、更に放射線照射後にセネセンス関連Βガラクトシダーゼを発現している事を確認した。 最終年度では特発性肺線維症に用いられるピルフェニドン、骨転移治療薬であるゾメタの2剤が濃度依存性に膵星細胞の浸潤や増殖を抑制し、その過程においてPDGF,HGF,Fibronectin,Collagen type1,Periostin,MMP2,MMP9の膵星細胞からの分泌を抑制することを解明した。更にin vivoで膵癌の抗癌剤であるジェムシタビンと先の2剤を併用すると著明な腫瘍縮小効果があることを見出した。このことにより、ピルフェニドン、ゾメタは膵星細胞の腫瘍増大を抑制していることが考えられ、膵星細胞をセネセンスへ誘導する可能性があることが示唆された。
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