膵癌に対して抑制的に作用する間質細胞を同定するためいに、膵癌間質の線維増生を制御する膵星細胞に着目し、その表面抗原の解析をフローサイトメトリーを用いて行った。本研究の契機の一つである膵癌抑制性の脂肪由来間質細胞の報告から、脂肪細胞にも分化しうる間葉系幹細胞に着目した。そして、その表面抗原であるCD271に着目するに至った。当研究室で樹立したヒト膵癌切除組織由来膵星細胞12種類を解析すると、CD271陽性細胞は0.0-2.1%の割合で認めた。インナーカップに膵星細胞、アウターカップに膵癌細胞を培養して行う遊走能実験では、癌細胞が存在するアウターカップの方向に遊走する膵星細胞集団が、遊走しない細胞集団よりもCD271の遺伝子発現量が少ないことが明らかになった。膵癌細胞との共培養実験では、CD271の遺伝子発現は一過性に増加した後に、減少することが明らかになった。CD271陽性細胞を、セル・ソーターで分取して機能実験を行うことを試みたが、CD271陽性細胞の割合が非常に少ないためか、安定的かつ高純度のCD271陽性細胞を十分量分取することはできなかった。次に、免疫組織化学染色法でヒト膵癌切除組織におけるCD271の発現を検討した。CD271は腫瘍の中心部分ではなく、腫瘍辺縁の間質に発現する傾向があることが明らかになった。また、臨床病理学的因子との解析も行い、CD271の発現量が高いほど予後良好であった。以上のことから、CD271は一過性のマーカーであり、発癌過程の早期に膵癌間質に発現することや、CD271陽性細胞が癌間質相互作用において癌細胞に対して抑制的に働くことが示唆された。
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