研究概要 |
研究代表者は、低酸素環境において胃癌悪性度に関わる遺伝子群を抽出すべく、HIF-1欠失胃癌細胞を用いた網羅的遺伝子解析を行った。その結果、胃粘膜修復に関わる癌抑制遺伝子TFF1に着目し、胃癌におけるTFF1の発現意義を検討した。 まず、胃癌切除標本185例を用い、TFF1の免疫組織学的発現と臨床病理学的因子・生存期間との関係について解析した。TFF1低発現例は高発現例と比較して、腫瘍深達度(T因子)が深く、有意に生存不良であった。多変量解析においては、独立した予後規定因子であり、以上の結果はこれまでに報告のない新知見であった。 次に着目したのは、TFF1の発現調節機序である。癌抑制遺伝子の多くはDNAメチル化によりサイレンシングを受けており、TFF1のプロモーター領域にも複数のCpG配列が存在しているが、メチル化による制御は明らかにされていない。胃癌細胞株6種を用いてバイサルファイトシーケンス法により、プロモーター領域のメチル化状況を解析したところ、メチル化の程度はTFF1発現と逆相関していることが判明した。続いて、切除標本でも同様の解析を行なったところ細胞株と同様の結果が得られ、とくに低酸素応答領域(HRE)とTATA box近傍に位置するCpGメチル化が発現と強く関係していた。 低酸素は数多くの遺伝子発現変化をもたらすが、なかにはTFF1のように癌抑制に働く遺伝子も存在し、その総和として癌悪性度が亢進すると考えられる。しかし、一部の癌においては、HREやTATA box近傍のDNAメチル化によって、TFF1の基礎発現および低酸素誘導が抑制され、その結果、粘膜の修復障害をもたらし癌の浸潤能が亢進、生存不良に寄与すると推察された。 以上の結果は論文として報告済である。(Int J Oncol 2013, T Tanaka, J Nakamura, et al.)
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