研究課題
研究目的の主である、食道癌におけるmTOR発現の意義を解明し、mTORが分子標的治療のtargetとなりうるかを検討した。まず、食道癌におけるmTOR発現レベルを免疫染色で評価し、予後や臨床病理学的因子との関係を解析した。以前のデータでは術前治療の無い食道扁平上皮癌 (n=143)においては、陽性率は71例/143例(49.7%)であり、p-mTOR陽性例は陰性例と比べ有意に予後不良であった。今回症例数を増やし、またカットオフ値を変え検討を行った。症例を167例に増やし、陽性or陰性で検討した。陽性率は116例/167例(69.5%)であり、前回同様p-mTOR陽性例は陰性例と比べ予後不良因子であった。次に食道癌細胞株を用いたin vitro studyを行った。まず、食道癌細胞株5種においてp-mTORの高発現株、低発現株を決定した。Western blotにいてTE4が最も高発現であり、TE11が最も低発現株であった。その2種を用いて、mTOR阻害剤(RAD001)を用いて、細胞増殖能(proliferation assay)、細胞周期静止能(cell cycle assay)、細胞浸潤能の抑制(invasion assay)、アポトーシス能の促進(flow cytometry)につき検討した。結果はmTOR阻害剤は細胞増殖を抑制し、細胞周期をG0/G1 arrestを起こし、細胞浸潤を抑制し、アポトーシス能を促進した。最後に前述のTE4、TE11の2株を用いて食道癌モデルマウスを作成し、mTOR阻害剤による腫瘍増殖抑制効果の検討を行った。結果はプラセボ群に比べ、mTOR阻害剤投与群は有意に腫瘍増殖を抑制した。また食道癌化学療法で高頻度に用いられるcisplatinとの相互作用も確認したところ、mTOR阻害剤とcisplatin併用群で最も腫瘍増殖効果を認めた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に記載されている、「食道扁平上皮癌250例以上」の免疫染色のうち、まだ170例ほどであるため、やや遅れている。また術前化学療法の有無、臨床病理学的因子との関係性はデータベースの整理が遅れており、解析には至っていない。in vitroにおける、「食道扁平上皮癌細胞株のp-mTORレベルを測定した後に低発現株と高発現株に分類し、mTOR阻害剤処理により細胞浸潤能(invasion assay)、増殖能(proliferation assay)、抗アポトーシス作用(flow cytometory)、抗癌剤感受性などにおいて、両株に差があるかを検討する。」は概ね予定通り進行しており、高発現株(TE4)と低発現株(TE11)においては両株に有意な差はなかったことが確認できた。しかし、mTOR阻害剤処理において、p-mTORが発現していることが重要であることが確認できた。 in vivoでは「食道扁平上皮癌モデルマウスを作製し、mTOR阻害剤投与による抗腫瘍効果を検討する。腫瘍におけるmTOR signalingの変化を解析し、さらに放射線増強作用、抗癌剤感受性増強作用の有無についても検討を行う。」に関しては、mTOR阻害剤投与により抗腫瘍効果が確認できた。またcisplatinの感受性増強作用も確認できている。しかし、放射線増感作用に関してはまだ研究進行段階である。 現段階で前回の続報を投稿し、publishされているため、(2)とした。
今後の研究方針として、免疫染色は手技が確立しているため、免疫染色を進め、また臨床病理学的因子との解析のためのデータベース整理が早急な課題である。予後検討については現段階において有意差が出ているため、症例数を確実に増やし、詳細な検討を行いたい。また食道癌化学療法に用いる抗癌剤(Docetaxel、5-FU、Cisplatin)とmTOR阻害剤の相互作用の確認後に放射線照射につき検討を行う。それぞれ単剤での細胞毒性が強く、上乗せ効果を検討するために投与量を慎重に決定する必要がある。また放射線照射量についても同様で、上乗せ効果を詳細に検討したい。in vitro、in vivo両方でのプロトコルの詳細な検討が必要で、複雑な手技と詳細な検討が必要となる。
次年度の使用予定研究費は今後の研究方針に沿って行う。免疫染色は手技が確立しているため、p-mTOR免疫染色用の抗体(Cell signaling)を主に、免疫染色の消耗品に研究費を充てる。また抗腫瘍効果の検討において主にin vitro、in vivoの実験に使う抗癌剤(Docetaxel、5-FU、Cisplatin)に使用を充てる。またヌードマウスの購入、施設使用・管理費が主となる。放射線照射においても施設使用費が主である。その他、学会発表における渡航費も必要となる。
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