悪性胸膜中皮腫 (MPM) は治療抵抗性で予後不良な疾患であり、患者数の増加が予測されている。我々は悪性胸膜中皮腫の細胞株を用いて、in vitroでのEGFR/MET阻害剤の効果を検討した。まず多くの悪性中皮腫細胞株においてMETの発現および活性化が上昇していることを確認し、さらに臨床検体を用いた免疫組織学的検討でも約80%の症例において発現の上昇が確認された。METの特異的な阻害剤処理による細胞の増殖、運動能に及ぼす影響について検討したが、これまでの報告と同様に多くの細胞株においては目立った効果は観察されなかった。MET阻害剤の効果が限定的である理由として、他の複数のRTKが活性化に関与しているためと考え、まず悪性胸膜中皮腫における42個のRTKの活性化状態を調べた。すると平均約6個のRTKが同時に活性化していることが明らかとなった。複数のRTKを同時に阻害すると腫瘍の増殖抑制効果が得られる可能性があると考え、多くの細胞株で高発現しているMETとEGFRの阻害剤を併用して実験を行うと、相乗的な増殖抑制効果を認めた。さらに分子標的治療の可能性を追究するため、同所移植モデルを確立し、in vivoにおけるEGFR/MET阻害剤の効果を検討した。しかし移植後生存日数は20-30日と短く、MET群・EGFR群・MET+EGFR群の間で生存における有意な差は認められなかった。ただし体重減少に転じる日数がMET阻害剤投与群とEGFR+MET阻害剤併用群で延長した。悪性中皮腫に対して、MET+EGFR阻害剤の併用が相乗的効果を示す可能性があることが、in vivoでも示唆された。
|