本研究では、Adiponectin産生細胞シートのドナー心への移植が、Adiponectinの移植心筋内での濃度を維持し、結果としてAllograft vasculopathyを抑制するかどうかの検証をめざし、段階的研究を行っている。 本研究室はScaffoldのない細胞シート作成方法を開発し、針を用いた直接注入による細胞移植と比較して長期に細胞シートが心臓に生着することを証明した。さらに、脂肪間葉系幹細胞をIn-vitroでAdiponectin産生脂肪細胞に分化させ、この細胞をシート化してScaffoldのない細胞シートとして重症不全心に移植し、Adiponectinの心筋内濃度を3ヶ月以上にわたり高濃度に維持するとともに、不全心機能を改善させることに成功した。 まず、Adiponectin産生脂肪細胞をwild-type mice (C57BL/6J)より分離培養し、Adiponectin細胞シート(ACS)を作成した。このACSはin vitroにて十分にadiponectin、hepatocyte growth factor、vascular endothelial growth factorを分泌することが確認された。 次にAdiponectin-knockout miceにこのACSを移植したところ、4週間後にこのknock-out miceの心筋内からAdiponectinが検出され、ACSがknock-out miceの心筋にAdiponectinを供給していたことが確認された。Adiponectinは移植後3ヵ月目にもknock-out miceの血清から検出された。 さらに、左冠動脈結紮により急性心筋梗塞モデルを作成し、同時にACSの移植を行ったところ、ACSは急性心筋梗塞発症後の心筋の炎症反応を軽減し、慢性期の心機能、生命予後を改善させ得ることが示された。 同実験により、Adiponectin産生細胞由来の細胞シートはadiponectin、hepatocyte growth factor、vascular endothelial growth factorなどを分泌し、障害心筋に対して保護的に働くことが示された。心筋組織内で起こる炎症反応を軽減する働きを有するため、移植心に対する免疫応答反応に対しても、抑制的に働く可能性が十分にあることが示唆される。
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