肺は実質臓器ではあるが、気相と液相が臓器内に存在するという特徴がある。気相と液相では熱伝動が著しく異なるため、これは他臓器と大きく異なる特徴である。また一度凍結された肺組織は毛細血管の破綻を主な原因とすると考えられる肺胞を中心とした水腫をきたし、気相は消失する。これにより初回凍結時と2回目凍結時の熱伝動は劇的に変化する。凍結を端子および外筒の材質による熱伝導の差異以上に肺の熱伝導特性は重要と考えられた。 まずは豚を用い、右開胸下に2mmの凍結端子を胸膜から3cm刺入し凍結5分、融解5分を2サイクル行なった。凍結範囲の確認は胸膜面で肉眼的に行った。針型温度センサーを胸膜面より3cm刺入し温度を計測した。計測は凍結端子刺入部より7から13mmの距離を測定した。凍結端子の先端温度は約―130℃、1回目の凍結では凍結範囲の先進部は半径8±0.6mmに達した。その後1回目の融解により約5mmの肺内出血輪がその周囲に形成され、2回目の凍結ではその出血輪の範囲が凍結され先進部は半径13±0.6mmに達した。2回目の凍結時の温度分布は半径7,8,9,10,13mmで各々-70±4、-39±7、-21±7、-14±8、+29±3℃であった。腫瘍細胞の殲滅には約-20℃以下の凍結が必要であると報告されている。本実験の結果では半径約9mmの腫瘍であれば2mmの端子1本で局所制御が得られる可能性が示唆された。さらに温度計測点を40点に増やした温度計測装置においても同様な結果が二次元的に得られ、凍結温度は2回目以上において同心円状に3層に分布し、殺細胞的と思われる‐20℃以下の範囲はその最内側約260平方mm、つまり半径にして約9mmであった。この範囲内に腫瘍を含むことが重要と考えられたが、腫瘍径がそれ以上の場合複数の端子をどのように配置すればよいかは今後の課題と考えられた。
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