研究課題
近年グリオブラストーマの治療後の再発の原因としてグリオーマ幹細胞の関与が注目されている。グリオブラストーマの治療ではアルキル化剤であるtemozolomide(以下TMZと略す)が用いられているが、グリオーマ幹細胞ではTMZ耐性を与えるDNA修復酵素のO6-methylguanine-DNA methyltransferase (以下MGMTと略す)が高発現しているため、TMZ治療後も残存し再発につながると考えられている。そこで本研究ではグリオーマ幹細胞のMGMT発現制御におけるMAPK経路の役割について検討するとともに、MAPK経路阻害剤とTMZの併用により、グリオーマ幹細胞を効率よく殺傷し長期生存を可能にする脳腫瘍治療モデルの確立を目的とする。平成23年度は以下の項目について検討を行った。(1)MEK阻害による分化誘導、MGMT発現低下は異なったグリオーマ幹細胞に共通に起きる現象であるかを確認するために、当研究室で樹立したグリオーマ幹細胞 (2種類)に加えて東京大学脳神経外科より供与されたグリオーマ幹細胞TGS01、TGS04で検討を行い、MEK阻害剤によってMGMTが減少することを確認した。(2)MEKに対するRNA干渉法によってMGMTの発現が減少することを確認した。(3)グリオーマ幹細胞のMGMTはTMZ抵抗性にかかわっているかを確認するために、MGMT遺伝子をRNA干渉法でノックダウンし同様に細胞死が増強することを確認した。(4)MEK阻害によってTMZ感受性は上昇するかを確認するために、MGMTの発現をMEK阻害剤あるいはRNA干渉を用いて減少させた後にTMZを投与し、細胞死の変化について検討を行い、細胞死が有意に増加することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度は計画通りにin vitroの実験をすすめ、予定通りに計画を実行できた。
現時点でほぼ計画通りに実験が進んでいるため、平成24年度は当初の予定通り動物実験を中心に研究を進めていく。
(1)皮下腫瘍モデルでの検討:in vivoにおけるMEK阻害剤によるMGMT発現の変化の検討。ヌードマウスの皮下にグリオーマ幹細胞を移植して腫瘍を形成させる。腫瘍が5-6mm大になった時点でSL327を腹腔内投与する。SL327の投与量はこれまでの報告(50-100 mg/kg、投与期間3-7日)を参考に、まず50mg/kgと100mg/kgの2つの濃度で5日間投与で検討を行う。腫瘍体積の変化を経時的に観察すると共に組織標本を作製し、MGMTの発現の変化を免疫染色およびWestern blot法にて検討する。(2)in vivoにおけるTMZ+SL327併用による腫瘍増殖抑制の検討。SL327投与におけるMGMTの発現低下を確認した後に、SL327とTMZの併用による腫瘍増殖抑制効について検討する。まず、皮下腫瘍モデルを用いて未治療、TMZ単独、SL327単独、TMZ+SL327併用の4群間での腫瘍体積について経時的に観察を行う。TMZの投与量および投与期間はこれまでの報告(投与量25-75mg/kg、投与期間5-14日)を参考に、まず25mg/kg、50mg/kg、75mg/kgの3つの濃度で7日間投与で検討を行う。(3)頭蓋内腫瘍モデルでの検討:TMZ+SL327併用による生存期間への影響皮下腫瘍モデルにて腫瘍増殖抑制が認められたTMZ+S327の投与量を参考にし、頭蓋内腫瘍モデルを用いて未治療、TMZ単独、SL327単独、TMZ+SL327併用の4群間での生存期間についてカプラン‐マイヤー法を用いて検討を行う。約2ヶ月で致死になるよう細胞数を調節して移植し、移植後4週間後に薬剤投与を開始する。
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Stem cells
巻: 29(9) ページ: 1327-37
10.1002/stem.696.