代表者は嗅粘膜上皮に存在する幹細胞(HBC)がオリゴデンドロサイト前駆細胞であるNG2細胞マーカー(NG2、PDGFRα、Olig2)を発現していることを見いだした。そして嗅粘膜組織より無血清培地下で、遺伝子工学的・細胞工学的手法を用いずに、NG2細胞マーカーを発現する細胞集塊(オルファクトリースフィア:OS)の作成に成功した。 代表者はこれまでに以下の項目(1)~(5)を明らかにした。(1) OS細胞はin vitroで、その70%がオリゴデンドロサイトへの分化を示し、残りはニューロンとアストロサイトへの分化を示した。(2) 胸髄挫滅損傷ラットの損傷部位にEGFP-OS細胞を移植すると、軸索線維(NF)に沿って生着し、95%がオリゴデンドロサイトへの分化を示した。(3) 後肢末梢神経(伏在神経)切断モデルラットを作成しOS細胞を移植した。コラーゲンのみの再生線維は脆弱で、50%の個体でのみ確認された。一方コラーゲン+OSCの再生繊維は肉眼的に明瞭で、すべての個体で認めた。(4) EGFP-OS細胞は末梢神経軸索線維の周囲に生着し、シュワン細胞への分化を示した。(5) ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸(VPA)は、OS細胞のヒストンをアセチル化し、in vitroとin vivoでOS細胞をニューロンに分化誘導した。 OS細胞は、倫理的問題をクリアーした成体自己組織由来の安全な細胞ソースである。またVPAは既に薬事承認され脳神経外科領域で広く使用されている薬剤であり、臨床応用への障害が少ない。OS細胞は遺伝子工学と細胞工学的手法を用いずに、in vitroとin vivoにてOS細胞からオリゴデンドロサイトとニューロンへの分化誘導が行われることが可能であり、安全性と倫理的問題をクリアした中枢末梢神経系の細胞ソースになりうる。
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