研究課題/領域番号 |
23791597
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
千葉 泰良 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (90533795)
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キーワード | 悪性神経膠腫 / Wilms’ tumor 1 (WT1) / ペプチドワクチン / がん免疫療法 / 腫瘍浸潤リンパ球 / in vivoイメージング / メチオニンPET / GFPマウス |
研究概要 |
本研究では当院で施行している再発悪性グリオーマに対するWT1ペプチドワクチン療法(以下、WT1療法)において、実際の免疫反応を可視化して治療効果判定に有用な画像検査の開発を目的としている。予定していた3種類の研究計画において、「1.メチオニンPETを用いたWT1免疫療法の評価方法の解析」については、平成23年度で完了した。 「2.マウスを用いたWT1免疫療法後のメチオニンPET解析と病理組織との相関」については、担脳腫瘍マウスモデルが安定して作成できるように細胞培養、細胞移植の手技を磨きつつある。ただ、脳腫瘍細胞株移植後にWT1免疫療法を施行すると、腫瘍が排除されてしまい、メチオニンPETを撮影しても腫瘍が写らない。現在、腫瘍が完全には排除されない程度の免疫反応になるように調整を行っている。 「3.GFPキメラマウスを用いたWT1免疫療法における免疫反応の経時的in vivoイメージング」については、今年度にC57BL/6-Tg(CAD-EGFP)マウスの導入を行い、大腿骨と頸骨から骨髄細胞(GFP骨髄細胞)を採取した。X線照射後のC57BL/6マウスの尾静脈から、GFP骨髄細胞を注入し、3ヶ月後に採血して末梢血リンパ球をflow cytometryにて解析した。その結果、70%程度の細胞がGFP陽性であり、免疫担当細胞のみがGFP陽性となる、GFPキメラマウスが作成できる事が確認できた。このキメラマウスに脳腫瘍細胞株移植を行ったが、こちらに関してもWT1免疫療法を施行すると腫瘍が排除されてしまい、腫瘍組織の解析を行う事が出来なかった。今後もキメラマウスの作成、脳腫瘍細胞株の移植を行って実験を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた3種類の研究計画において、「1.メチオニンPETを用いたWT1免疫療法の評価方法の解析」については、順調に進んで完了する事が出来たが、動物モデルを用いた、「2.マウスを用いたWT1免疫療法後のメチオニンPET解析と病理組織との相関」「3.GFPキメラマウスを用いたWT1免疫療法における免疫反応の経時的in vivoイメージング」がやや遅れている。いずれも、脳腫瘍細胞株移植モデルに対してWT1免疫療法を行うと、腫瘍が排除されてしまうという事に起因している。この研究で用いているマウスグリオーマ細胞株、GL261は脳内移植を問題なく行う事が出来るのであるが、WT1発現があまり見られないため、WT1過剰発現遺伝子を導入した細胞株を使用している。このWT1過剰発現GL261細胞株は培養液での成長などは通常のGL261細胞株と変わりないが、マウス脳内に移植すると、生着率が明らかに低下する。10万個の皮下移植では生着するが、脳内に移植可能な1万個以下の移植では生着率が低下し、安定した担脳腫瘍マウスモデルの作成が難しい。さらにWT1免疫療法を施行すると、ほとんどのケースで腫瘍が排除されてしまい、脳腫瘍組織の病理解析や、メチオニンPET、in vivoイメージングを行う事が出来ない状況である。腫瘍が生着し、WT1免疫療法を施行した一部の組織解析では、免疫担当細胞の腫瘍内浸潤が強い事は確認できたが、再現性に乏しい。今年度は、担脳腫瘍マウスモデルを安定的に作成して、再現性を高める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
「3.GFPキメラマウスを用いたWT1免疫療法における免疫反応の経時的in vivoイメージング」で使用するGFPキメラマウスの作成は今年度に行う事が出来たので、次年度は手技を安定させるべく、何度もGFPキメラマウスの作成を行っていく予定である。 研究が遅れている最大の原因である、WT1過剰発現GL261がマウス脳内で排除されてしまう問題について、次年度に解決する必要がある。WT1タンパクががん抗原であるが故に、WT1過剰発現細胞はマウス免疫が排除してしまうと思われるが、WT1を過剰発現していない通常のGL261細胞株ではWT1免疫療法が効果的でないと考えられるので使用できず、WT1過剰発現GL261を使用せざるを得ない。WT1を過剰に発現しながらマウス免疫に排除されない細胞株を作成する方法としては、①GL261細胞株に導入したWT1タンパクのプロモーターを変更してWT1発現量を少し低下させる。あるいは②マウス皮下、あるいは脳内に移植して生着した腫瘍を摘出してprimary cultureという事を何度か行って、WT1を過剰に発現しながらマウス免疫に排除されない細胞を選択していく、という2種類のどちらかで可能であると考えている。より簡単な②を試し、作成できなければ①を試す計画である。 これらの方法で、マウス脳内にほぼ100%の割合で生着し、さらにWT1免疫療法を行っても完全には排除されないWT1過剰発現GL261細胞が得られた後、計画通り、腫瘍組織の解析、メチオニンPETの撮影、経時的in vivoイメージングを行う予定とする。これらの手技に関しては特に難しいものではなく、GFPキメラマウスの作成もすでに行えているので、次年度中に完了できると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は動物実験と、その結果の発表に研究費を使用する予定である。マウスの購入、飼育費に20万円、GFPキメラマウスの作成に10万円、マウス脳腫瘍細胞株の培養、移植に10万円、免疫染色の試薬、抗体購入に20万円、WT1ワクチン、アジュバント購入費に16万円、学会発表のための旅費、参加費に6万円の合計82万円を使用する予定としている。
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