研究概要 |
1.ヒト神経膠腫細胞株のU87MG, LNZ308, T98Gを選択し、IDH1R132H変異遺伝子の発現ベクターならびにIDH1 wild-type遺伝子発現ベクター、及び遺伝子の組み込みがない空ベクター(pCMV6-ENTRY)の3種類のベクタープラスミドを遺伝子導入し、T98G以外の二つの細胞株よりsublineが複数樹立された。IDH1R132H導入株ではその蛋白発現をWestern blotにてIDH1R132Hの特異抗体を用いて検出した。 2.これらの細胞株を用いて、IDH1R132H及びwild-type (wt) IDH1の高発現により細胞増殖及び細胞死等に関与する腫瘍関連蛋白の発現変化の有無を、Western blot法により検討した。膠芽腫で高頻度に異常が認められる受容体チロシンキナーゼからのシグナル伝達系に関与する因子(EGFR, PI3Kp110, AKT, mTOR, p70S6K, ERK, JNK)及びそのリン酸化の有無、p53系とcell cycle関連因子(p53, p21, p27, Cyclin D1)、apoptosis関連因子(Bcl-XL, Bcl-2, Bax, Bid)、血管新生関連因子(VEGF, HIF1α)は、いずれも親株、wtIDH1及びIDH1R132Hの高発現株間に発現の相違は認められなかった。 3.IDH1R132Hの高発現による腫瘍細胞の増殖能への影響を検討するため、これらの細胞株をathymic miceに移植し、その成長曲線を比較した。現在のpreliminaryな段階では、IDH1 mutant株で増殖能が亢進する結果は得られていない。 4.IDH1変異例では予後がよい傾向が示されているため、これらの細胞株を抗がん剤で治療し、その感受性を比較した。U87MGにおいて、CDDPで治療し、MTTアッセイでcell viabilityを測定した。親株に比し、wtIDH1導入株ではやや耐性が高い傾向がみられたのに対し、IDH1変異株はCDDP感受性が高まる傾向が認められた。この所見は、IDH1変異腫瘍例で治療後の予後がよいことと相関する可能性も示唆された。
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