研究課題
限局性皮質異型成(FCD)は、小児期に難治てんかんの原因となる代表的な疾患である。FCD患者では難治なてんかん発作だけではなく、知的、あるいは運動発達の遅れも認められることが多い。その病態、原因に付いては不明なことが多く、原因を明らかにすることが求められている。FCDでは、治療のために病巣を切除することが行われる。当施設では、多くのFCD患者がてんかん外科手術を受けている。我々は、当施設の特性を生かし、FCDの原因遺伝子の探求を行っている。FCDの組織を観察すると、神経細胞の増加や異型性が認められるため、体細胞変異が病変部に生じている、という仮説を立てた。このアイデアをもとに、研究当初(初年度)の計画の研究計画では、手術した外科手術標本からゲノムを抽出し、患者本人のゲノムとアレイCGHを行って病変部の遺伝子の微小な欠失や重複など数的異常を検出することを計画した。倫理委員会での承認を得た1、患者あるいは代諾者より、研究参加の同意を頂く。2、同意を得た患者検体(外科手術組織および血液を採取)を収集する。3、アレイCGHを行う、という計画で研究を開始した。初年度および当該年度はアレイCGHによる解析を行っていたが、期待されるような病変部に特異的な微小な染色体の重複、欠失は認められなかった。当該年度中に他のグループから、FCDが病変部のみに生じる点突然変異で発症されることが報告されたため、アレイCGHからエキソーム解析に解析手法を変更し、現在まで、2検体の解析を終えている。
3: やや遅れている
てんかん手術を行っていた患者(あるいは代諾者)から同意を得て、検体の収集を行っているが、現在までにおよそ40検体まで収集が終了しており、検体の収集という点からは目標に到達している。また、その後の処理に耐えうる十分な品質を持ったゲノムを安定的に得ることができている。今年度は、他の研究グループからFCDの原因遺伝子が報告された。これは、細胞の増殖に関わるmTOR系に関わるタンパク質をコードする遺伝子の点突然変異だった。しかし、多くのFCDの原因遺伝子は明らかになっておらず、FCDは単一の遺伝子の変異で生じるのではなく、様々な原因遺伝子により発症する疾患であることが明らかになっている。点突然変異はアレイCGHでは検出することができない。このため、最近の知見を取り入れて、アレイCGHから、エキソーム解析へと実験系を変更した。この点が、計画が遅れる現となった。これは、これまでに見いだされたFCDの原因とされた遺伝子異常が、微小な量的異常の場合はなく、すべて点突然変異であったためである。正常組織(血液)と病変部との遺伝情報の相違から原因遺伝子を探求する、という基本的な枠組みは変更せず、解析手法を変更ことになる。この点では初年度の地区セクを生かすことができた。エキソーム解析はアレイCGH解析に比べるとコストがかかるため、まず解析を行う検体を厳選する方針とした。このため、臨床情報も含めて広く検討した。上記のように、基本的な研究の枠組みの変更はないが、解析手法を変更したために、やや遅れが生じる結果となった。
本年度の計画を継続する形で研究を進めていくことを予定としている。FCDは、点突然変異で起こりうること、多様な遺伝子異常から成り立つ疾患であることが明らかになった。エクソーム解析で新たな原因遺伝子を見いだすためには、時間、コストの関係上、解析できる検体数に制約があること、解析によって得られる原因遺伝子の候補群から、原因遺伝子の候補へと絞り込む必要性などから、できるだけ同質の(同一の原因遺伝子から発症したと考えられる)複数の検体での解析が必要である。FCDは組織系としては大きく4種に分類され、診断はもとより学術論文などでも基準として受け入れられている。さらに同質な検体を扱うことを目的とし、組織型に加え、放射線学的特徴(病変の広がり、形態・あるいは信号の変化など)、臨床経過(発症年齢、発作型)から類似した症例を選択する。エキソーム解析は、これまでに得られた検体を生かす形で、手術生検検体と同じ患者の血液から得られたゲノムを使用する。両者を比較することで、生検検体のみに出現する変異を検索する。さらに、遺伝子の機能や、機能的変異を来しうるか、という点などで候補遺伝子の絞り込みを行う。候補遺伝子がなお多くある場合には、先に述べたような組織型と臨床的特徴が類似している患者からえられた結果との比較を行い、さらに絞り込む。候補遺伝子を絞り込んだ後、直接シークエンス法で遺伝子配列を決定し、変異があることを確認し、原因遺伝子を確定する。確定した場合には遺伝子産物の組織での発現を確認する。
エクソーム解析を含む遺伝学的解析に関わる試薬の購入に研究費の大部分が使用される予定である。必要な実験機器自体は所属する研究室で使用を許可されており、備品の購入予定はない。また、主要な競合研究者が海外で活動していることから、情報収集のために国際学会への参加を予定している。
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Brain Dev
巻: 35 ページ: 531-539
10.1016/j.braindev.2012.08.007