研究課題
我々はまず遺伝子発現比較解析の結果、スフィア形成細胞で有意に高発現している候補遺伝子群と幹細胞性遺伝子の相関を半定量的RT-PCR法を用いて解析した。その結果有意な相関が見られる細胞表面抗原Aを同定した。 表面抗原Aに対する特異抗体を用いてFACSにより陽性細胞、陰性細胞を分取し、それぞれ1x102~105個、NOD/SCIDマウスの両脇腹に皮下移植し腫瘍形成能を比較した。その結果、表面抗原A陽性細胞は陰性細胞に比して約25倍の腫瘍形成能を有することが判明した。さらに腫瘍を形成し得る最小個数で形成された移植片を酵素処理にて再度個細胞化し、NOD/SCIDマウスに継代移植し、自己複製能の有無を解析したところ表面抗原A陽性細胞は継代移植可能であったのに対し、陰性細胞では腫瘍が生着せず陽性細胞のみが自己複製能を保持していることが示唆された。また移植片の一部から組織標本を作製し表面抗原A陽性細胞由来の腫瘍とオリジナルの腫瘍とではほぼ同様の形態学的・免疫組織化学的特徴を有しており、表面抗原A陽性細胞は多分化能を有していることも示唆された。 以上の結果から表面抗原Aは高い造腫瘍能、自己複製能、多分化能を有する細胞集団に高発現していることが判明し、滑膜肉腫幹細胞を分離・濃縮し得るマーカーと考えられた。現在は表面抗原Aの特異的阻害剤とshRNAによる発現抑制の2つの方法を用いて腫瘍の抑制効果in vivoの系を用いて検証中である。今後は分離した滑膜肉腫幹細胞の化学療法、放射線療法に対する耐性の有無とその解除等を解析するとともに、今回同定した表面抗原A以外の候補分子と幹細胞性の制御機構との関連についても研究を進め、新規治療標的・バイオマーカーのさらなる同定を目指す。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した「研究の目的」及び平成23年度分の「研究計画・方法」の内容に関しては大部分が現時点で完了している。しかし治療評価系の確立において、滑膜肉腫検体の入手の遅れから一部未達成の部分があるが、技術的な問題はクリアされており検体入手次第遅れを取り戻せる事、その他の評価系に関しては確立が終了していることからおおむね順調に進展していると考えている。
1) 滑膜肉腫検体による検証と新規診断、予後マーカーの探索: 各膜肉腫幹細胞マーカー候補遺伝子に特異的な抗体を用いて、滑膜肉腫症例で免疫染色を施行し、陽性率と長期予後の比較検討を行い予後との相関を検討する。有意な相関が見られる遺伝子が判明した場合、継続的に免疫染色と予後追跡を行い症例数を増やしてさらなる検討を行う。また滑膜肉腫を含む悪性軟部腫瘍症例を用いて候補遺伝子の免疫染色を行い、滑膜肉腫で特異的に陽性像が得られる診断マーカーの探索も行う。探索の精度向上、ハイスループット化を狙って軟部腫瘍のtissue arrayの作製を委託予定である。2) 治療薬としての低分子化合物の同定、中和抗体の作製: 絞り込まれた候補遺伝子を遺伝子情報によって分類する。既存の抑制剤及び特異抗体が存在するものに関しては抑制剤・抗体をそのまま評価系に用いる。間葉系幹細胞等何らかの組織幹細胞性に関わる遺伝子の場合は分化培地による分化誘導を評価系で使用する。上記以外の新規分子に関しては中和抗体の作製、ケミカルライブラリースクリーニングを用いて新規分子を特異的に抑制する低分子化合物の探索を行う。3) 初代培養細胞及びxenoglaft modelによる治療効果判定: 治療薬候補を前述の臨床検体由来の初代培養細胞、マウス腫瘍移植片、モデルマウスを用いて効果判定を行う。効果判定はin vivoで腫瘍のサイズ、及び組織学的な検索により行う。
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