我々はまずcDNAマイクロアレイを用いて滑膜肉腫細胞株におけるスフィア形成細胞群と非形成細胞群の遺伝子発現比較解析を行った。その結果、スフィア形成細胞で有意に高発現しており、幹細胞性遺伝子発現と高い相関の見られる細胞表面抗原Aが同定された。 表面抗原Aが滑膜肉腫細胞株における腫瘍幹細胞を分離・濃縮し得るか否かを解析するために、対特異抗体を用いてFACSにより陽性細胞、陰性細胞を分取し、限界希釈法による造腫瘍能の評価、NOD/SCIDマウスにおける陽性細胞由来移植片の継代移植による自己複製能の評価、陽性細胞由来移植片とオリジナルの細胞株由来移植片との病理組織学的解析による多分化能の評価を行った。その結果、表面抗原Aは高い造腫瘍能、自己複製能、多分化能を有する細胞集団を分離・濃縮可能であり、滑膜肉腫幹細胞マーカーであることが判明した。 実際の滑膜肉腫における表面抗原Aの発現の有無と悪性度との関連を検討するために、42例の滑膜肉腫症例を用いて免疫染色を行い、予後やその他の臨床的事項との相関解析を行ったところ、表面抗原A陽性症例では有意に全生存期間の短縮が見られ、表面抗原Aが予後予測を可能とするマーカーとなり得ることが示唆された。 さらに表面抗原Aの特異的阻害剤による腫瘍増殖抑制効果の検討を行ったところ、in vitroの系において2種の滑膜肉腫細胞株で有意な増殖抑制効果を有する事が判明した。現在は複数の阻害剤を用いてin vivoでの治療モデルの確立を目指し解析を進めている。 今後は分離した滑膜肉腫幹細胞の化学療法、放射線療法に対する耐性の有無とその解除等を解析するとともに、今回同定した表面抗原A以外の候補分子と幹細胞性の制御機構との関連についても研究を進め、新規治療標的・バイオマーカーのさらなる同定を目指す。
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