研究概要 |
脊髄障害の中枢神経代償メカニズム理解する上で、運動計画に非常に重要な情報をもたらす体性感覚入力の影響の考慮は不可欠である。体性感覚入力のコントロールが困難なため、過去の神経画像研究では体性感覚入力に伴う運動野(M1)の活動に関する問題に対処してこなかった。我々は健常者を対象に経頭蓋磁気刺激(TMS)/正中神経電気刺激(MNS)-機能的MRI(fMRI)-筋電図同時計測系を用い、TMS、固有・表在感覚入力誘発ヒトM1の脳活動を詳細に検討した。固有感覚入力による脳活動は、ほぼ全てが背側吻側部分(M1a)内に認め、表在感覚入力による脳活動はM1a、腹尾側部分(M1p)両方に認め、この結果はサルの先行研究(Strick & Preston, 1982)とほぼ一致していた。TMS誘発M1・運動前野・補足運動野の脳活動のうち、10-20%が固有感覚入力で説明できた。TMS誘発脳活動における固有感覚入力の影響を初めて定量的に明らかにした研究で、運動制御における体性感覚と運動の統合の理解に資する非常に重要な知見が得られた。次に、大脳と頚髄のfMRI同時計測に取り組んだ。健常者を対象とし、右母指・小指の対立運動課題を行い、課題施行中に大脳から頚髄レベルまでを撮像範囲とし、矢状断面で撮像した。課題中の大脳・頚髄の神経活動を計測・評価するため、関心領域(ROI)として、頚髄、左一次運動野、一次体性感覚野、運動前野、補足運動野からROIデータを抽出し、相互の機能連関を検証した。ROI解析の結果、異なるレベルの頚髄髄節間、また手指運動に関わるC7-T1髄節相当の頚髄と各運動関連脳領域との間にそれぞれ有意な機能相関を認めた。本システムは新たな客観的中枢神経系評価法として有用だと思われる。今後は頚髄疾患への臨床応用を進めていく。
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