研究概要 |
新規購入した低酸素細胞培養器および独自の細胞外環境変換システムを用い、I:骨肉腫細胞株(SaOS2,MG63,LM8,U2OS)、胃癌細胞株(AGN)、肺癌細胞株(H1299)を、低酸素、酸性、低栄養、高静水圧の複合環境下で培養し、各培養環境下での遺伝子発現の違いを、マクロアレイにて比較検討を行った。II:各環境培養後のアクリジンの細胞集積度を、共焦点顕微鏡、pHセンサー色素、FACS scanで検討した。I.各種細胞間での差異がみられたが、低酸素および酸性環境により、これまで明らかとされているHIF関連遺伝子(VEGF,CA9,MMPs)のほか、HES-1,ADM, ALDOA, HK2, GBE1, LDHA, PFKFB4, BNIP3などの遺伝子が同定検出された。低酸素でup‐regulateされる遺伝子もあれば、高静水圧下で抑制される遺伝子もあるため、治療ターゲットとなる遺伝子の特定については、さらなる実験が必要であるが、CA9、VEGFについては、高発現しており、低酸素および酸性をコントロールする重要なタンパクであると予想される。II.AOの細胞培養環境下の違いによる取り込みは、骨肉腫細胞株では、低栄養かつ低酸素下でAOの集積が高く(1.57-2.01倍)、H1299は低酸素下で高い集積(1.35倍)を認めた。また骨肉腫細胞株では低酸素・低pHおよび低栄養の複合因子がAOの細胞内集積度を促進した。細胞浸潤能では、低pH(invasion index34.9)または低酸素環境下(index33.3)でより高い浸潤能を示した。以上の結果は、低酸素などの細胞外環境因子は、悪性腫瘍において、高浸潤能を刺激する因子となり、低pH、低酸素環境をコントロールすることは、悪性腫瘍の治療に有効で、同定された遺伝子を制御することで、次年度の新たな治療法の開発研究が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度、下記の研究目的に対して、I:骨肉腫細胞株(SaOS2,MG63,LM8,U2OS)、胃癌細胞株(AGN)、肺癌細胞株(H1299)を、低酸素、酸性、低栄養、高静水圧の複合環境下で培養し、各培養環境下での遺伝子発現の違いを、マクロアレイにて比較検討。II:各環境培養後のアクリジンの細胞集積度を、共焦点顕微鏡、pHセンサー色素、FACS scanで検討。I.に関しては、同定される遺伝子が各種細胞間での差異が大きく、一元的に特定遺伝子の道程は困難であるものの、今後のカギとなる遺伝子の同定に目途をつけることができた。II.の細胞環境間における、アクリジンオレンジの集積度は、予想の通り、低酸素、低栄養にて増強されることが判明した。細胞環境間でのアクリジン殺細胞効果については、環境の差異による殺細胞効果の違いにより、光線療法による殺細胞効果の判定は困難であったが、遺伝子同定により、次年度研究での対象遺伝子が絞られたため、おおむね研究は進展しているといえる。
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