研究課題/領域番号 |
23791662
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高田 伊知郎 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (50361655)
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 転写 / エピジェネティクス / PPARγ / BMP2 |
研究概要 |
マウス骨髄由来の間葉系幹細胞であるST2細胞を用い、脂肪細胞分化、骨芽細胞分化におけるBMP2とPPARγ活性のクロストークに関して、マーカー遺伝子発現、エピジェネティク制御の両面から検討を行った。 ST2細胞においてPPARγリガンド及びBMP2を添加し、ChIPアッセイを用いて脂肪細胞分化誘導因子aP2プロモーター、骨芽細胞分化誘導因子Runx2プロモーター領域のヒストン修飾変動を検討した。詳細な検討の結果、PPARγリガンド処理3時間後にBMP2処理を4時間行 った場合、BMP単独で4時間処理した場合よりも、Runx2プロモーター領域において、転写活性に関連する修飾ヒストンH3分布が増加した。更にBMP2を3時間処理後、PPARγリガンド4時間処理を行った場合では、PPARγ単独で4時間投与した条件よりもaP2プロモーター領域において転写活性化型修飾ヒストンH3が低下する傾向が得られた。 これらの結果は、骨芽細胞分化マーカー遺伝子Runx2や脂肪細胞分化マーカー遺伝子aP2のmRNA発現変動と類似している事を、定量的RT-PCRを行う事で確認する事が出来た。また、ST2細胞の培養において各リガンドを順番を変えて添加した場合も同様な結果が得られる事を、骨芽細胞で特異的に発現するアルカリホスファターゼ活性、脂肪細胞の中性脂質を染めるオイルレッドO染色で確認を行った。 更にマイクロアレイを施行したところ、ChIPアッセイや定量的RT-PCRの結果と同様にBMP2とPPARγリガンド処理順による遺伝子発現変動の差を見出した。またPPARγ機能を制御する遺伝子のノックアウトマウス作出を世界に先駆けて成功し、解析用に繁殖させている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
達成として、BMP2処理後のPPARγ効果、PPARγリガンド処理後のBMP2効果に関し、マウス間葉系由来の幹細胞であるST2細胞を用いた発現・エピジェネティクス制御レベルでの処理順の差を確認できた。この成果を論文としてまとめ、電子雑誌「PPAR Research」に掲載された(2012:607141)。更にマイクロアレイの結果、この様なシグナル処理の不可逆的な効果は広範囲な影響をもたらす事も確認できた。以上の点では概ね順調な実験結果を得る事が出来たが、次世代シーケンサーを用いたChIPseqやマウス個体を用いた検討までは出来なかった。これらは今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
この結果は、脂肪を作るPPARγシグナルと、骨を作るBMP2シグナルに関し、エピジェネティクスレベルでのシグナルクロストークを示した最初の報告である。特にPPARγリガンドを短時間処理した間葉系幹細胞は、BMP2シグナルの効果を増幅させた。この現象は、将来の骨再生等を目的とした幹細胞治療法の一助になる可能性を秘めている。例えば、PPARγリガンドを短時間処理する事で、間葉系幹細胞の骨芽分化能が促進されるかも知れない。 更にこの現象は、肥満におけるシグナル感受性の面での、骨代謝制御の差も現している可能性が高い。特に今後はエピジェネティックレベルで制御を受ける遺伝子群を理解し、骨と脂肪のバランス維持制御因子の同定に繋がると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。主に昨年度までに試行出来なかったChIPseqに関して、検討を行う。対象としては今回BMP2処理とPPARγリガンド処理の効果に反応したヒストン修飾、PPARγ、SMADなどに関し検討する。可能であれば、マウスから抽出した間葉系幹細胞を使用する。また現在、PPARγの転写共役因子として機能する遺伝子の同定と組織特異的ノックアウトマウスの作出に成功しており、このマウスの解析もおこなう。
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