研究課題/領域番号 |
23791665
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
佐藤 敦 昭和大学, 医学部, 助教 (10445596)
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キーワード | 脊髄損傷 / ヒト骨髄間葉系幹細胞 / インターロイキン1 / マイクログリア / マクロファージ / PACAP |
研究概要 |
マイクログリア・マクロファージは中枢神経損傷時に様々なタイプに活性化し,炎症の憎悪だけでなく組織修復や組織再生に関与することが知られている.当該年度は,ヒト骨髄間葉系幹細胞(hMSCs)の移植は,神経損傷時にマイクログリア・マクロファージがどのようなタイプの活性タイプに変化するかを脊髄切断による脊髄損傷モデルを用いて検討した.さらに,神経ペプチドであるPACAPがこれらの活性化型にどのように関与するかをPACAP遺伝子欠損マウスに対するhMSCsの移植により検討した.これらの結果から,hMSCsは脊髄損傷後の下肢運動機能を有意に改善することがわかった.一方,PACAP遺伝子欠損マウスにhMSCsを移植した場合,下肢運動機能の改善を認めず,この作用がキャンセルされることが見出された.さらに,マイクログリアやマクロファージを活性化する様々なサイトカインの発現をヒトおよびマウスの遺伝子発現を調べることにより明らかにした.これらの結果から,hMSCsはマウスの炎症性サイトカインを抑制し,インターロイキン4(IL-4)の発現を有意に促進することが分かった.このIL-4の発現は,PACAP遺伝子改変動物によりキャンセルされることより,hMSCsとレシピエントそれぞれより発現するPACAPが相互にコミュニケーションを行い,脊髄損傷における神経細胞死の抑制に寄与している新しい知見を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究の目的は脊髄損傷後の新規診断方法の開発および新たな治療戦略の発展につながる基礎研究を行うことである。新規診断方法の開発は、マウス脊髄損傷モデルを用い脊髄の損傷状態と炎症状態の変化を比較することにより損傷から修復・再生治癒にいたる損傷状態の推移をマイクログリア/ マクロファージの活性化タイプの変化を指標にして明らかにする。当該年度の実績報告に示したように、申請者は、脊髄損傷後のヒト骨髄間葉系幹細胞(hMSCs)移植が脊髄損傷を抑制することを明らかにした.また、hMSCsはマウス炎症性サイトカインを抑制し,IL-4の発現を有意に促進した.さらに、これらの作用はPACAP遺伝子改変動物によりキャンセルされることよりhMSCsとレシピエントより発現するPACAPが相互にコミュニケーションを行い神経細胞死の抑制に寄与していることを明らかにした.これらの結果を得る事ができ、研究は概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
hMSCsとレシピエントのコミュニケーションの作用機序を調べる目的で,脳虚血したマウスにhMSCsの静脈(総頚静脈)および動脈(総頸動脈)投与によるhMSCsの脳内遺伝子修飾作用をマイクロアレイで検討する.脊髄損傷マウスでも同様にhMSCsの投与を行い脊髄内遺伝子修飾作用をマイクロアレイで検討する.昨年度に引き続きhMSCsを脊髄損傷マウスに移植しhMSCsのマイクログリア/マクロファージへの修飾作用機序を解析する.組織、運動、マイクログリア/マクロファージ活性化マーカーの評価は昨年度と同様に行う。つぎに、C57/BL6 scidマウスを用いて同様の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
動物実験を中心に行っていくため実験動物、麻酔等の費用を通年を通して計上した.引き続き行う免疫組織学的解析、細胞培養やFACS分析のための抗体、ELISAキットの購入を行う.PCRアレイはhMSCsの脊髄内遺伝子修飾作用を調べるために必須であり計上した.その他、hMSCsの維持、投与、immunoblotting解析のための試薬、神経トレーサーおよび細胞培養を行うための試薬の購入が必要である.国内学会および国際学会に年1~2 回参加し、研究の成果発表および情報収集を行う.そのために旅費、学会参加費(その他)は必要である。また、論文投稿における論文校正および学会誌投稿料も成果の発信のために必須である.
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