研究概要 |
間葉系組織から発生するユーイング肉腫は、染色体転座による融合遺伝子の形成や、様々な遺伝子変異の蓄積などゲノム側の異常だけでなく、発生母地となる細胞や細胞環境が発がんと深く関わっていると考えられている。しかしながら、融合遺伝子形成以降の詳細な発がん機構や、腫瘍の発生起源は未だ解明されておらず、それらの解決に役立つ動物モデルも確立されていない。本研究では、ヒトユーイング肉腫を反映するマウスモデルを作製し詳細に解析することで発がん機構の解明を目指す。マウス胎児・長幹骨由来のFZ (facial zone) 細胞に融合遺伝子を導入し、ヌードマウスの皮下へ移植した。移植後3週で初期病変が発生し、10週で1.5cm大の腫瘤に増大した。腫瘍細胞をマウスの尾静脈へ注入すると、肺転移を示すものも認められ、in vivoで発がんの初期から悪性化へと進展するプロセスを観察・解析できるモデルが作製できた。発生した腫瘍はいずれも、小円形細胞の密な増殖から成るユーイング肉腫様の形態像を示し、遺伝子発現プロファイルにおいてもヒトユーイング肉腫と共通性が示唆された。次に、EWS-FLI1導入48時間後のFZ細胞の遺伝子発現の変化を解析したところ、Wnt/β-catenin経路のDkk2, Wif1、EGF経路のPrkcb、RTK経路のFlt4, Muskが特異的に上昇し、その他にもEzh2, Ptpn13, Gstm4, Polr2g, Tert, Aurkaの亢進が見られ、腫瘍発生初期におけるEWS-FLI1標的遺伝子の発現応答が示された。発生母地となったFZ細胞は、分化誘導実験とRT-PCRにより、主に骨・軟骨前駆細胞から成ることが分かった。現在は、母地を更に細かく同定するため、表面マーカーを用いてFZ細胞の濃縮を行うと共に、FZ細胞の細胞内環境を規定するエピゲノム状態の解析を進めている。
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