研究課題/領域番号 |
23791674
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
中谷 文彦 独立行政法人国立がん研究センター, 中央病院, 医員 (00535320)
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キーワード | 癌 |
研究概要 |
本研究は、様々な高悪性度骨軟部肉腫患者の生検時腫瘍検体や血清検体を用い、発がんや悪性形質維持に大きな役割を持つとして近年注目されているマイクロRNAの網羅的発現解析(マイクロアレイ)を行うことにより、予後や治療効果を予測するバイオマーカーとなりうるマイクロRNAを同定することを第一の目的とした。 まず解析試料の蒐集(生検および血清サンプル)を行い、臨床病理学的データベースの作成及び更新を行った。次に小児・若年成人に好発する高悪性度骨軟部肉腫であるユーイング肉腫に着目し、マイクロRNAの網羅的解析を行った。着目した理由としてはユーイング肉腫が特徴的な遺伝子相互転座の結果生じる、融合遺伝子EWS-ETS遺伝子群によって発症することが分かっている腫瘍であること。比較的均一な円形細胞腫瘍であり、サンプル処理によって生じるばらつきを最小化できる可能性が高いことなどがあげられた。具体的な方法・結果としては、均一なプロトコール治療が行われた、限局性ユーイング肉腫50例の初診時生検サンプルから抽出した全RNAを使用し、miRNAマイクロアレイを施行した。得られたデータを、再発転移および死亡イベントの有無で比較、有意に差を認めたmiRNA群について定量化PCRおよび多変量解析による検証を行った結果、miR-34aの発現量が高い症例は予後が良好であり、発現量が著しく低い症例は2年以内にほぼ全例が再発転移を来したことから、miR-34aはEwing肉腫の独立した予後因子であると考えられた。同研究結果を国際結合組織癌学会(Connective Tissue Oncology Society)の学術集会および日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍学術集会にて発表し、さらにはJournal of Pathologyの原著論文、雑誌、癌と化学療法の総説として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
悪性骨軟部腫瘍は非常にまれな腫瘍であり、ほぼ均一な治療が行われた50例のユーイング肉腫患者の生検検体から得られた上記の結果は、非常に貴重なものであると考えられる。また上記結果を国内外の主要な骨軟部腫瘍関連学会に口演および示説発表を行い、国内外の研究者から大変な好評を得たと共に、英文誌、国内雑誌に掲載されることによってこれらの成果を周知し得たことは、重要な成果と考えられる。一方、共同研究者であるボローニャ大学、リッツォーリ整形外科病院・研究所のマリオ・メルクーリ氏の突然の逝去により、その後の研究協議が滞っており、ユーイング肉腫において得られたバイオマーカーであるmiR-34aの機能解析、他の肉腫に関するマイクロRNA網羅的解析が進んでいないことが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では高悪性度骨肉腫、横紋筋肉腫および滑膜肉腫患者から得られた生検検体を用いて、同様な手法により予後や治療効果を予測するバイオマーカーとなりうるマイクロRNAを同定することを計画している。さらに、本研究により発見したユーイング肉腫におけるバイオマーカーであるmiR-34aを実際の臨床に利用するためには、他施設で治療が行われたユーイング肉腫症例についてもその有効性を検証する必要がある。現在日本ユーイング肉腫研究グループ(JESS)は新規化学療法プロトコールを作成中であり、それが最終的に提示された後、miR-34aがユーイング肉腫における真の予後バイオマーカーとなり得るかどうかを検証する研究を、付随研究として申請する予定である。また、共同研究施設であるボローニャ大学、リッツォーリ整形外科病院・研究所と協議の上、マイクロRNA創薬を目指してユーイング肉腫におけるmiR-34aの機能解析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
高悪性度骨肉腫を含む、高悪性度骨軟部肉腫の生検検体を用いたマイクロRNAの解析を行うための消耗品を購入予定である。同研究で得られた結果を、共同研究施設であるボローニャ大学、リッツォーリ整形外科病院・研究所と協議、さらには得られた結果を国内外の主要な骨軟部腫瘍関連学会で発表するための旅費として使用する予定である。
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