本研究では硬さ制御可能な3次元培養用人工細胞外マトリックスを開発し、幹細胞の軟骨細胞への分化における3次元足場の硬さの影響を明らかにする。近年、細胞分化とその足場の硬さの関係が明らかにされたが、いずれも2次元培養での研究成果である。従来、硬さ制御には細胞毒性がある架橋剤を用いるために、3次元での培養はできなかったが、コラーゲンと化学的に等価であるゼラチンの融点を高める新技術を開発して3次元培養を実現し、濃度により硬さを制御するため、細胞へのダメージを最小化した培養環境を提供する。この3次元環境を利用して3次元の硬さが幹細胞の軟骨細胞分化に与える影響を解明する。 まず、培養環境(37℃)で融解しない高融点ゼラチンを合成し、細胞の3次元包埋培養を実現する。ゼラチンの高融点化は(1)原料にアテロコラーゲンを用い、(2)低分子量化を抑制するゼラチン作成法ならびに(3)濃縮技術を確立した。作製したゼラチンを非分解性ゼラチン(UCG)とし、濃度5%UCGは融点が約37℃、ゲル化温度は約24℃であった。しかしながら、UCGは30℃に静置すると従来のゼラチンでは起こり得ない線維化がすることを発見した。これは30℃でらせん構造の回復率が高いことに起因することが分かった。 次にゼラチン濃度で硬さを制御して3次元包埋培養の実験系を構築した。30℃で5時間線維化させたUCGゲルは濃度8%で弾性率が約5kPaとなり、従来の市販コラーゲンゲル0.5%の約0.4kPaと比べて硬いゲルが作製できた。いずれの濃度のUCGにおいても細胞生存率は3日間で低下しなかった。しかしながら、UCGゲルは培養液を交換すると、その弾性率は著しく低下して長期培養に耐えられないことが判明した。分化に長期間を要するために安定性の高いUCGゲルの作製方法を検討して成功したが、硬さが与える分化への影響の詳細な検討に至らなかった。
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