主要なヒアルロン酸(HA)レセプターであるCD44の機能性は、関節軟骨の恒常性維持に極めて重要である。CD44は酵素的断片化によりレセプターとしての機能を喪失し細胞内断片(ICD)を生ずる。CD44の断片化はCell-HA結合の喪失につながり、予想されるICDの転写因子としての機能と共に、軟骨細胞の脱分化に関わっている可能性があると考えて検討を進めている。本研究では、脱分化軟骨細胞を変形性関節症モデルと位置づけ、関節軟骨細胞の脱分化におけるCD44断片化の意義とICD自体の機能解析を行い、断片化抑制による脱分化制御の可能性を探る予定であるが、同時に遺伝学的に均一であるcell lineにおけるCD44の断片化モデルを確立することは、当研究を進めるに当たり重要である。 そこで我々は第一に、HCS細胞(ヒト軟骨細胞様細胞株)において検討を進めている。CD44の断片化阻害はMMP阻害剤の使用やCD44のLipid raftへの移行を阻害することで可能であるが、特に本年度は既に臨床で使用されているHMG-CoA還元酵素素材薬であるSimvastatinを用いた断片化阻害効果を中心に検討した。IL-1β刺激によるCD44断片化はSimvastatinにより効果的に阻害された。またこの阻害効果はコレステロール生成阻害のみならず、RasやRac/Rhoシグナル阻害が関与していることを確認した。さらに、SimvastatinはCD44断片化に関わる膜型MMPの発現を抑制したが、siRNAによるRNA干渉実験系において、MT1-MMPやADAM10/17の単独ノックダウンはCD44の断片化を抑制せず、ダブルノックダウンにおいて断片化抑制効果を確認出来たことから、断片化には複数の膜型MMPが相互作用的に関与していることが示唆された。
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