塩酸ランジオロールは周術期管理に有用な短時間作用性β遮断薬であり、ハイリスク患者における低用量投与の有効性の報告が漸増している。しかし、現在はハイリスク患者における薬物動態パラメータが不明であるため、血中濃度が増加しているのか、感受性が増加しているのか明らかになっていない。そこで今回は、健常人の薬物動態パラメータ(PKP)を用いて標的濃度調節持続静注(TCI)システムを利用して、実際の血管外科患者への投与を行い、ハイリスク患者のPKPの算出を行うことを目的として研究を行った。当院では手術対象となる血管外科患者が多く存在し、当初の計画通りの患者のエントリーが可能で有り、実際の投与を行えた。血中濃度も計画通りの14ポイントの採血を行い、実測も順調に可能であった。 得られた実測値は、概ね期待通りの値であり、予測血中濃度と実測血中濃度は大きな解離を認めないことが確認できた。これに伴い、算出されたPKPも、健常人のPKPと大きな解離は見られなかった。これにより、血管外科患者の薬物動態は、健常人とは、大きく異ならず、比較的近いPKPであるため、高齢者が低用量で効果を得られた過去の報告は、薬物動態よりも薬力学的に感受性が亢進していることが想像された。 この研究から得られた結果により、ハイリスク患者においては、投与量から得られる血中濃度は、健常人に近い値であることが推測され、感受性を加味して薬力学的なアプローチから投与量を減量する必要性が示唆された。 今後は、心臓手術における薬物動態研究(PKP算出)と薬力学的研究を完了させることにより、周術期に塩酸ランジオロールを必要とする患者の適切な投与量の推定がカノとなると推測される。
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