【背景】以前のデクスメデトミジン(Dex)と低体温療法との併用効果を検討した研究では、Dexの投与は脳虚血前または虚血後であった。【目的】今回、Dexの脳虚血中投与と低体温併用療法の脳保護効果を短期予後と長期予後に分けて検討した。〔短期予後〕【対象】雄性SD ラット32匹。【方法】ハロタン麻酔導入・気管挿管後、調節呼吸とした。尾動脈、左大腿静脈、右頚静脈にカテーテルを留置し、右側頭筋に体温計を刺入。その後66%亜酸化窒素とフェンタニルの10 μg/kg単回投与及び25 μg/kg/hの持続投与で麻酔維持した。対照(C)群(生食1 ml/kg)、Dex100 μg/kg(側頭筋温37.5 ℃)(D)群、低体温(35 ℃)(H)群、Dex100 μg/kg+低体温(DH)群の4群に分けた。脱血により平均動脈圧を40 mmHgに維持、右総頚動脈閉塞にて右側前脳虚血状態とした。虚血直後に生食またはDexの腹腔内投与と体温調節、20分後に頚動脈閉塞解除と返血による脳の再灌流、再灌流60分後に復温を行った。虚血3日後に脳灌流固定後、脳冠状切片のHE染色を行い、光学顕微鏡的に海馬、大脳皮質の虚血脳障害の程度を比較した。【結果】C群に比べ、D群、H群およびDH群における右海馬CA1細胞の障害の程度が有意に少なかったが、処置群間では差はなかった。〔長期予後〕【方法】短期予後と同様に前脳虚血を作成、薬剤投与・再灌流を行い、虚血28日後に脳障害の程度を比較した。【結果】C群に比べ、D群、H群およびDH群における右海馬CA1細胞の障害の程度が有意に少なかったが、処置群間では差はなかった。【まとめ】Dex虚血中投与と低体温療法、両者の併用療法ではそれぞれ右海馬CA1細胞の障害に対し短期・長期予後ともに脳保護効果を認めたが、併用療法による脳保護増強効果は認められなかった。
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