研究課題/領域番号 |
23791685
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
久保 和宏 群馬大学, 医学部, 助教 (80546531)
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キーワード | GAD67 / GFP / 吸入麻酔薬 / VGAT |
研究概要 |
現在、世界では年間150万人の胎児や新生児が何らかの麻酔薬を母胎経由、もしくは直接投与されている。麻酔薬が脳の発達に影響を与える一因子である可能性が報告されているものの,胎児・新生児に対する影響は、未解明である。研究目的は,GABA合成酵(GAD67)のプロモーターの下流にGFPを挿入し、GABA作動性ニューロンが同定可能なノックインマウスを用いて、胎仔期、新生期の麻酔薬の曝露が発達段階の中枢神経系の構築においてどのような影響を与えるかを調べることである。そして、その影響が長期間続くものであるかを麻酔薬に対する感受性・疼痛閾値の変化を個体レベルで解析し、臨床使用されている麻酔薬の分子レベルにおける安全性を評価する新規アプローチである。 麻酔薬が胎児期、新生児期においてどのような影響を与えるかを明らかにするために、GAD67-GFPノックインマウスを用いて組織学的にGABA作動性ニューロンの脳各部位での分布や神経細胞の比率を求め、麻酔薬の有無で投与時期、麻酔薬の種類で比較検討する。 また、その影響を成熟したマウス(12~16週齢)で麻酔薬感受性、不安レベル、協調運動、疼痛閾値を用いて解析する1.5%セボフルランを生後1日、3日、5日に各12時間、計36時間投与した。濃度1.5%としたのは、2.5%以上のセボフルランでは自発呼吸や循環を保てないと判断したからである。そして、成熟後(4月齢)、海馬、基底核、大脳皮質、小脳などが関与する水中での動きから学習能力を検討した。その結果、セボフルラン麻酔群の学習能力、特に位置感覚の学習能力は、非麻酔群と比べても差がなかった。また、学習に依存しない非学習系の不安を評価するため、高架式十字迷路テストを行った。その結果、セボフルラン投与群では不安行動が強くなる傾向が見られた。ロタロッドを用いて協調運動機能の実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度もマウスの繁殖がうまくいかないため実験に必要な数が安定的に確保できなかった。しかし、抑制性神経伝達物質(GABA、グリシン)の小胞体への取り込み作用を抑制したVGATヘテロノックアウトマウスに対する吸入麻酔薬のデータを採取した。 今後はこのデータとともに並行して行っているGAD67‐GFPマウスの実験データともにより詳細な解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はマウスの繁殖能に低下がみられ安定的なマウスの供給を行うことができなかった。今後は、行動実験を多く行う予定であるた め、繁殖規模を拡大していく必要がある。 GAD67-GFPノックインマウスを用いて組織学的にGABA作動性ニューロンの脳各部位での分布や神経細胞の比率を求め、麻酔薬の有無で投与時期、麻酔薬の種類で比較検討する。 また、その影響を成熟したマウス(12~16週齢)で麻酔薬感受性(duration of loss of righting reflex)、不安レベル(Open-field test)、協調運動(Rota-rod)、疼痛閾値(Hot plate test, Formalin test, Plantertest)を用いて解析する【研究その1】現在、臨床使用頻度の高い麻酔薬に対し、脳神経系の構築におけるGABA作動性ニューロンの数と部位に対する影響の有無を投与時期、投与量の観点から明らかにする。アポトーシスのマーカーであるcaspase-3とシナプス新生のマーカーであるsynaptophysinに対する抗体を用いて免疫染色を行う。【研究その2】脳神経系形成期における麻酔薬の長期的な影響を行動解析により評価する。研究その1の結果と照らし合わせ分子レベルと個体レベルの両面から評価することにより、麻酔薬の分子レベルでの危険性、安全性を証明する。 今年度は、並行してVGATヘテロノックアウトマウスの麻酔薬感受性の基礎データを取った。結果は成体マウスの麻酔薬に対する立ち直り反射は野生型と有意差のない(ED50:1.1~1.2%)ものであった。今後は生後早期の麻酔薬の暴露が及ぼす影響についてVGATヘテロマウス、GAD67GFPマウスで並行して行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
行動実験に関する機器は当研究室にあるため追加購入の予定はいまのところはなく、主に免疫染色に使用する抗体試薬代、麻酔薬、遺 伝子解析用試薬などの消耗品にあてる予定である。 また、今年度の経過より、マウスの繁殖を拡充して行う必要があるため飼育代にも充当する予定である。
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