研究概要 |
現在、世界では年間150万人の胎児や新生児が何らかの麻酔薬を母胎経由、もしくは直接投与されている。麻酔薬が脳の発達に影響を与える一因子である可能性が報告されているものの,胎児・新生児に対する影響は、未解明である。研究目的は,胎仔期、新生期の麻酔薬の曝露が発達段階の中枢神経系の構築においてどのような影響を与えるかを調べることである。そして、その影響が長期間続くものであるかを麻酔薬に対する感受性・疼痛閾値の変化を個体レベルで解析し、臨床使用されている麻酔薬の分子レベルにおける安全性を評価する。GABA合成能を低下させたマウス(GAD65ノックアウトマウス)GABA放出能を低下させたマウス(VGATヘテロノックアウトマウス)に対し、麻酔薬を作用させた行動実験的解析を行い、その両面から麻酔薬の個体レベルの作用におけるの関与を明らかにする。これらのマウスには不安行動の増加、抗不安薬に対する抵抗性などが行動実験により報告されている。 昨年度まではGAD65ノックアウトマウスに麻酔薬(プロポフォール)の作用低下、セボフルランの成長期投与による行動実験解析による影響を示してきたが、本年度はVGATヘテロマウスにおける麻酔薬の感受性に関する行動実験を行った。特定の濃度(0.6-3.0%)の平衡状態に至るまで10分間静置した。プロポフォールへの反応をみる行動実験では、27G針と1mlシリンジを用いて経尾静脈的に投与後、保温された小箱に移してマウスの反応を観察した。立ち直り反射消失(LORR)、尾ピンチ反応消失(LTWR)、後肢ピンチ反応消失(LHWR)の濃度を、野生型(WT)とヘテロ(12-16週)で比較した。今回、用量反応関係を調べたが、各群ともに有意な差は確認できなかった。今後は継続して麻酔薬の長期被ばくによるVGAT等の抑制性神経伝達物質の関与を研究する。
|