1)大量出血による心肺停止に対するβ遮断薬の影響 出血性ショック導入前にβ遮断薬(カルベジロール)を内服していた群では,コントロール群(カルベジロール非内服群)と比較して有意に蘇生率および生存率が悪かった.現在,手術前の術前内服薬としてβ遮断薬は通常内服を継続することとなっているが,この結果を踏まえると今後大量の出血が予想される手術ではβ遮断薬の内服は中止したほうが良いのかもしれない.今後は臨床でも前向きに検討が必要になってくる.2)気道閉塞による心肺停止に対するβ遮断薬の影響 気道閉塞によって心肺停止を導入する前にβ遮断薬(カルベジロール)を内服していた群では,コントロール群(カルベジロール非内服群)と比較して,気道閉塞から心停止までの時間,自己心拍再開率,生存率ともすべて有意に高かった.また,ベースライン(気道閉塞前)の心拍数と気道閉塞から心停止までの時間を回帰分析すると,ベースラインでの心拍数が低いほうが心停止までの時間がのびることが明らかとなった.これは,β遮断薬内服によって心拍数が下がり心筋細胞内のエネルギー消費率が低下するためではないかと考えられる.今後は,手術中に低酸素血症をきたすおそれがあるような呼吸器系の手術では,予防的にβ遮断薬を内服することで低酸素血症→心停止という不幸な転機を予防できるかもしれない.また集中治療の分野でも重度の低酸素血症を示す肺炎などでβ遮断薬を予防的に内服させることで,死亡率の低下を得ることができるかもしれない.
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