研究課題/領域番号 |
23791700
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
杉山 陽子 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70444255)
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キーワード | 気道上皮 / ムチン / 麻酔薬 / 喫煙 |
研究概要 |
培養気道上皮細胞のNCI-H292細胞を継代培養して実験に用いた。気道免疫のfirst stepとなる気道粘液(ムチン)産生は喫煙により増加する。臨床で人工呼吸中に鎮静薬・麻酔薬として頻用されているプロポフォールが喫煙により増加したムチン産生系に影響を及ぼすかを検討した。 タバコ煙抽出液を作製し、H292細胞を16時間刺激すると濃度依存性に分泌型ムチンの一種であるMUC5ACの産生・分泌が促進された。その後さらに8時間、プロポフォールで刺激を加えるとプロポフォールは濃度依存性にMUC5AC産生を増強した。タバコ抽出液への暴露を行わない細胞ではプロポフォールによる有意なMUC5AC産生増加はみられなかった。GABAA受容体拮抗薬であるピクロトキシンおよびSR95531で前処置して実験を行ったがプロポフォールによるムチン産生増加はブロックされなかったためGABAA受容体を介さない作用と推察された。ERKはMUC5AC産生にかかわる細胞内シグナルとして知られている。細胞をタバコ煙抽出液で前処置後にプロポフォールで刺激し、ウェスタンブロット法を用いてERKの活性化を測定したところ、プロポフォールはERKを有意に活性化していた。ERK上流に位置するMEK抑制薬がプロポフォールによるMUC5AC産生をブロックしたことから、MUC5AC産生増強作用はERK活性化が関与していると示唆された。 気道上皮におけるムチン産生は細菌や異物などの気道への侵入を防ぐ重要な役割を持っている一方で、喫煙者に多い慢性閉塞性呼吸障害ではムチン過剰産生が病状悪化の主因とされている。麻酔薬によるムチン産生の修飾作用とその機序を解明することは人工呼吸中の肺保護に新たな知見をもたらすと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のごとく得られた研究結果を平成25年度のアメリカ麻酔学会で発表するために演題応募中である。 さらにMUC5AC産生機序の上流である上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化にプロポフォールが作用しているかどうか、現在検討中であり、その結果を加えて論文投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
プロポフォールだけでなく、臨床で麻酔、人工呼吸中の鎮静に用いる吸入麻酔薬、ケタミン、ミダゾラムによるムチン産生への作用と喫煙との影響を検討する。 喫煙期間や、禁煙の影響を検討するためにタバコ煙抽出液の暴露時間や麻酔薬刺激前のタバコ煙抽出液のwash out時間を変化させてしてムチン産生への影響があるか検討する。さらにヒト正常気道上皮細胞を培養して同じような結果が得られるかを確認する。 ラットを麻酔下に気管切開してさまざまな時間で人工呼吸器に接続した後に固定し、MUC5ACはじめ気道分泌物や炎症性サイトカインの気道上皮での産生と麻酔薬・鎮静薬による影響を検討する。喫煙モデルのラットでも同様の研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
現時点でも使用している細胞培養試薬、および細胞内シグナル解明のためのELISAキット、抗体の購入、ウェスタンブロット法やRT-PCR法に使用する試薬類、ヒト正常気道上皮細胞購入および培養に要する経費に使用する予定。 さらにラット購入費および飼育費用、免疫染色のための各試薬の購入に使用する。 繰越金が生じた理由として、細胞の生育状況が不安定な時期があり、実験の進行が予定よりも遅れたため購入予定だった試薬等を使用できなかったため。
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