マウス脳におけるエリスロポエチンは、虚血、低酸素により誘導され、中枢神経の保護作用を有すると考えられている。我々は低酸素 環境に暴露したマウス脳を用いて、検討した全ての全身麻酔薬(イソフルラン、セボフルラン、ハロタン、バルビタール、プロポフォ ール、ケタミン)により、低酸素下でのエリスロポエチン誘導が濃度、時間依存的に抑制されることを見いだした。また初代培養アス トロサイトを用いた実験系において、同様に全身麻酔薬がエリスロポエチン誘導を抑制することを示した。これらの結果から、血圧低 下や呼吸の変化といった二次的な変化によるものではなく、全身麻酔薬が脳内エリスロポエチンの主たる産生源であるアストロサイト に直接作用していることが強く示唆された。これまで麻酔薬のグリア細胞に対する作用は、ほとんど明らかではなかったが、本研究の 結果により、全身麻酔薬がアストロサイトに共通した作用を有することが明らかとなった。また幼若マウスを使用した研究では、イソ フルランを暴露することにより、脳内のエリスロポエチン誘導が濃度依存的に抑制されることが示された。麻酔薬による神経発生に対 する影響は、近年多数の報告により無視できないものであることが示唆されており、エリスロポエチンの神経発生における重要性を考 慮すると、麻酔薬がエリスロポエチン抑制を介して、脳の正常な発達を抑制する可能性があると考えられる。今後はさらに麻酔薬がエ リスロポエチンを抑制する詳細な機構を検討することで、さらに麻酔薬がアストロサイトに及ぼす影響を明らかにしうるものと考えて いる。
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