平成23年度はラットを用いた基礎研究を行った。48時間の介入期間において,滅菌水の摂取のみ(対照群),経口補水液(臨床で使用されている経口補水液であるOS-1),炭水化物含有飲料(臨床使用されている炭水化物18%含有飲料,アルジネード・ウォーター)を各群6匹ずつでそれぞれ摂取させた。48時間の介入後,腸管粘膜を採取し,HE染色を行い,その状態について観察した。また,同時に採血も行い,腸管粘膜の状態を強く反映するDAO活性を測定し,HE染色による形態学的評価と併せて血液検査における評価を行った。その結果,48時間,炭水化物含有飲料を摂取した群でDAO活性が有意に高かった。 平成24年度は臨床研究において,インスリン抵抗性改善作用を有するかについて検討を行った。まず,介入研究での必要症例数を算出するために,先行して,ボランティア研究で,術前炭水化物負荷にどれほどのインスリン抵抗性改善作用があるのかを検討した。6名の被験者に対して,クロスオーバーデザインで試験を行った。18%炭水化物含有飲料を検査前日,当日朝に摂取する群と,水のみを摂取する群に分けた。インスリン抵抗性は正常血糖グルコースクランプ法を用いて評価した。その結果,18%炭水化物含有飲料を摂取することで,水のみに比して有意にインスリン抵抗性が改善されることが明らかになった。 2年間の研究を通して,術前炭水化物負荷が消化管粘膜保護作用とインスリン抵抗性改善作用を有することを明らかにできた。術前炭水化物負荷は広く実践されるもののエビデンスが不足しているのが現状である。この点において,本邦で広く利用されている飲料水でエビデンスが出たことは,周術期栄養管理において重要である。今後は臨床研究でその効果を明らかにしていきたい。
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