本研究は、臨床の場面にて腎移植手術や大血管手術等の際にて不可避となる腎臓の虚血再灌流障害時における、腎保護作用をターゲットにした基礎的研究である。今回の研究において、この虚血再灌流時に生じる多量の酸化ストレス制御を目標に実験を計画した。従来の多くの研究結果や当教室での検討により、再灌流時の酸化ストレスを抑制することが、その後の腎機能を保護する上で重要であることが報告されているが、その方法として様々な薬剤の投与が試みられてきたが、臨床応用に至っていない。そこで、今回我々は、従来の抗酸化薬の欠点として考えられていた不安定性を克服すべく、抗酸化機能を有したビタミンEを核に、グルタチオンとタウリンを化学的に結合した新規の化合物ETS-GSを合成し、その効果をラット人虚血再灌流モデル用いて検討している。 本研究は、3年計画であり、今年は3年目に当たる最終年度であった。昨年度までに得られた結果をもとに、総まとめの実験を行い、以下の結果を得ることができた。ラット人虚血再灌流により、腎機能の悪化と組織障害を生じるが、ETS-GSの投与によりこれらの変化を有意に抑制することができた。また、このメカニズムとして、虚血再灌流により高度に上昇した腎組織中の酸化物であるMDAがETS-GSに抑制されることや虚血再灌流後のミトコンドリア機能障害を抑制できることからETS-GSによる酸化ストレス抑制が関与していることが分かった。 以上の結果から、今回新規に合成したビタミンE誘導体であるETS-GSには、高い抗酸化作用を作用機序とした虚血再灌流障害に対する保護効果が認められてたと結論図けることができ、今後、本研究をさらに進め、臨床応用に向けた取り組みを加速させていく予定である。
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