研究課題/領域番号 |
23791724
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
小林 悠佳 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (20511562)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / マクロファージ / T細胞 / 共刺激分子 / 神経炎症 / GITR / GITRL |
研究概要 |
これまでに、神経傷害性疼痛におけるマクロファージ由来のサイトカイン・ケモカインネットワークの重要性を提唱してきた。本研究では、T細胞の機能に着目し、疼痛慢性化メカニズムにおけるマクロファージ-T細胞間クロストークの関与について検討を行った。坐骨神経部分結紮(Partial Sciatic nerve Ligation: PSL)モデルを作製し、実験に用いた。RT-PCR解析により、傷害坐骨神経におけるマクロファージマーカー(F4/80, CD11b, CD14)およびT細胞マーカー(CD3γ, CD4, CD25)のmRNA発現増加が観察された。免疫染色により、PSL後の傷害部位にF4/80陽性マクロファージおよびCD3γ陽性T細胞の浸潤が明らかとなった。リポソーム化クロドロネートによりマクロファージを枯渇させることでPSL後触アロディニアおよび熱痛覚過敏が抑制された。また、抗CD25抗体によりPSL後触アロディニアおよび熱痛覚過敏は抑制された。マクロファージ‐T細胞間の共刺激分子であるグルココルチコチイド誘発性TNF受容体リガンド(glucocorticoid induced TNF receptor ligand: GITRL)およびその受容体であるGITRのmRNAは、PSL後坐骨神経において増加していた。二重免疫染色法により、GITRLはPSL後の坐骨神経に集積したマクロファージ、GITRはT細胞にそれぞれ局在していた。さらに、GITRL中和抗体をPSL後の坐骨神経周囲に投与したところ、PSL後触アロディニアおよび熱痛覚過敏共に有意に抑制され、その抑制効果は用量依存的であった。これらの結果より、傷害部位に集積したマクロファージおよびT細胞にはGITRLおよびGITRによる共刺激経路が存在し、GITRL-GITR経路の遮断が新規治療薬標的となり得る可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度の研究実施計画の主たる目標である坐骨神経傷害後における障害部位でのT細胞の発現および分布について生化学的、組織化学的解析により経時的変化を捉えることができた。また、抗体および薬剤(リポソーム化クロドロネート)投与により免疫細胞を枯渇・機能抑制させた状態での研究が進めることができ、おおむね予想していた通りの結果が得られ、神経障害性疼痛における免疫細胞の重要な役割を実証できた。H24年度では、末梢血、脾臓、リンパ節等の障害部位以外のT細胞の発現挙動にもフォーカスして解析を行う計画であり、各々の部位で免疫発現変化およびT細胞サブセットの同定もFACS等を用いて実施したいと考えている。神経障害性疼痛調節における免疫細胞の欠損の影響に関しては、H23年度実施計画に申請していたT細胞機能欠損マウスやマクロファージコロニー刺激因子欠損(Csf-1-/-op/op)マウスを用いた実験は実施できなかったが、H24年度に各免疫細胞欠損マウスを用いることにより今年度得られた結果をさらに明確にすることができると期待する。H24年度に実施を予定していた共刺激分子GITRLおよびGITRの発現変化および局在解析については、H23年度に生化学的・組織化学的解析により明らかにすることができた。また、神経障害性疼痛におけるGITRL-GITR経路の機能はLoss of functionの視点から、中和抗体を用いて行動学的解析を実施し、神経障害性疼痛におけるGITRL-GITR経路の重要性を検証できた。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度に実施できなかった免疫細胞欠損マウスを用いた実験計画を実施する予定である。したがって、H23年度の未使用研究費を実験動物購入代としてH24年度に使用する。具体的な実験計画として、免疫細胞欠損マウスを用いて神経障害性疼痛モデルを作製し、行動学的解析や傷害後坐骨神経、末梢血、脾臓およびリンパ節における免疫細胞の挙動を生化学的・組織化学的手法により検討する。マクロファージ機能低下時におけるT細胞の機能変化、あるいはT細胞機能低下時におけるマクロファージ機能変化を解析することで神経障害性疼痛時のマクロファージ-T細胞間クロストーク機構および共刺激分子の重要性を明らかにできると考えている。また、化学療法薬誘発性の神経障害性疼痛モデル等にも応用し、本研究から得られた概念が普遍的なものであることを実証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度同様、各々の解析で必要な分子生物学、生化学試薬および組織化学試薬を購入する予定である。種々の遺伝子変異動物を用いた実験計画を含むため、動物購入・飼育に経費を必要とする。そのため、H23年度未使用分をH24年度の動物購入および飼育費として申請する。本研究により得られた研究成果は、国内学会(日本薬理学会、日本神経科学大会 等)および国際学会(Society of Neuroscience等)にて発表する計画であり、学会参加費および旅費を計上する。
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