核DNA結合蛋白であるHMGB1(High mobility group box 1)は、敗血症や炎症をおこすサイトカイン誘導メディエーターである。近年、脳内炎症反応が記憶障害に関与し、HMGB1が脳内炎症性サイトカインを誘導する重要な前駆物質である可能性が示唆されている。我々は以前、メラニン凝集ホルモン(MCH)脳室内投与が海馬アセチルコリン(ACh)放出増大を来たし、記憶を促進させる作用があることを示唆した。今回、HMGB1の脳室内投与前処置がMCH脳室内投与による海馬ACh放出への影響を検討した。 方法として、 雄Wistarラット(280~320g)を使用した。実験5~7日前にペントバルビタール麻酔下で微量注入用ステンレス管を脳室内に、マイクロダイアリシスガイドカニューラを海馬に留置した。HMGB1(1μg/5μl)または生理食塩水(NS)(5μl)を24時間前に脳室内投与した。実験当日、約2時間安定化させた後、MCH(1μg/5μl )またはNS(5μl)を脳室内投与し、海馬からのACh放出を3時間観察した。ACh分析には高速液体クロマトグラフィーを用いた。さらに、脳波・筋電図を記録した。 結果として、NS(前処置)-MCH群(n=6)はNS-NS群(n=8)と比較し、我々の報告通りACh放出量が有意に増加した(p<0.01、二元配置分散分析)。HMGB1(前処置)-MCH群(n=6)とHMGB1-NS群(n=6)では、HMGB1-MCH群のACh放出量が有意に増加した(p<0.01)。脳波解析より、HMGB1(前処置)群(n=11)とNS(前処置)群(n=14)を比較し、HMGB1(前処置)群の方が覚醒期が有意に低下し(p<0.01、二元配置分散分析)、non-rem睡眠期が有意に増加した(p<0.01、二元配置分散分析)。NS(前処置)-MCH群(n=6)とNS-NS群(n=8)を比較し、NS(前処置)-MCH群のMCH投与後のrem睡眠期が有意に増加した(p<0.05、二元配置分散分析)。
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