研究課題
本年度は特に、EGFRのチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブ (イレッサ) 耐性ヒト非小細胞肺がん細胞増殖に対するオピオイドの効果についての検討を行った。オピオイド受容体は、μ、δ、κ-オピオイド受容体の 3 つのタイプに分類される。まず、μ-オピオイド受容体作動薬である morphine、δ-オピオイド受容体作動薬である SNC80 ならびにκ-オピオイド受容体作動薬である U50,488H ゲフィチニブ耐性非小細胞肺がんである H1975 に処置することにより、MTT 法に従い、がん細胞増殖への影響について検討した。その結果、morphine によるがん細胞増殖抑制作用は認められなかったのに対して、SNC80 ならびに U50,488H を処置した場合においては、用量依存的かつ有意ながん細胞増殖抑制作用が認められた。 次に、オピオイドによるゲフィチニブ耐性非小細胞肺がんである H1975 の細胞増殖抑制メカニズムを検討する目的で、EGFR の下流に存在する Akt、Stat ならびに GSK3βをはじめとしたキナーゼの活性化について、リン酸化抗体を用い検討を行った。その結果、κ-オピオイド受容体作動薬である U50,488H の H1975 細胞への処置により、用量依存的かつ有意なリン酸化 GSK3βの抑制が認められた。さらに、GSK3βの選択的阻害薬を H1975 細胞に処置することにより、がん細胞増殖の抑制が認められた。こうした研究成果は、British Journal of Cancer (IF: 4.8) に受理された。
2: おおむね順調に進展している
平成 23 年度の計画と照らし合わせたところ、ステップ1: EGFRのチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブ耐性ヒト非小細胞肺がん細胞増殖に対するオピオイドの効果についての検討ならびに、ステップ2: オピオイドによる肺がん細胞増殖抑制効果のメカニズムの検討については、網羅的な解析を行い、ほぼ検討を終えている。特に、κ-オピオイド受容体のゲフィチニブ耐性非小細胞肺がんへの影響を検討した研究成果は、British Journal of Cancer に受理された。こうした経過から、研究はほぼ順調に進んでおり、研究成果が論文となった点に関しては、当初の計画以上の成果を得ていると考える。
現在は、δ-オピオイド受容体の役割について注目しており、肺がん細胞の形質転換に伴うがん幹細胞化への影響について検討を試みている。非常に興味深い傾向を得ているため、平成 24 年度は、引き続き検討を行っていく。平成 24 年度は、オピオイドの神経幹細胞への影響についても検討を行う。
消耗品として、約 80 万円 (繰越金含む) を見込んでいる。旅費 (国外、国内) として、約 40 万円を見込んでいる。投稿料などのその他として、約 10 万円を見込んでいる。研究費が平成 24 年度まで継続であることを踏まえ、平成 23 年度における必要な消耗品については全て購入を済ませたことから、平成 24 年度に残金を繰り越した方が無駄がなく効率的であると考え、75657 円を繰越金とした。平成 24 年度において、この繰越金は消耗品費の一部として使用する予定である。
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Br J Cancer.
巻: 106 ページ: 1148-52