プロポフォールをプロポフォールをtarget-controlled infusion(TCI)により投与した時の予測濃度と実測濃度の変化について調査した。本研究で予測濃度の計算に、全世界的に臨床使用されている2つの薬物動態モデル(Marshモデル、Schniderモデル)を用いた。Marshモデル(現在日本の日常臨床で利用できる唯一のモデル)では、TCIにおける薬剤の最大投与速度が速い方が投与初期2~3分間の予測が悪く、投与速度をゆっくりにすることで予測の精度を上昇させることができた。一方Schniderモデルでは、投与速度が異なっても予測精度は同程度であった。 全身麻酔中の術中覚醒は全身麻酔の合併症の一つで、発症率は0.2%といわれている。PTSD(心的外傷後ストレス障害)につながることがあるため、発症はできるだけ抑えたい。しかし、全身麻酔に求められる無意識・無記憶といった麻酔効果を、麻酔中に客観的に連続的に評価することは困難である。したがって、プロポフォールで全身麻酔を行う際に、プロポフォール濃度とその効果の関係を評価する際に、就眠時のプロポフォール濃度を知ることは、術中覚醒の予防に役立つ重要な情報の一つとなる。ところが、今回の研究において、Marshモデルを使ってプロポフォールTCIを行う際には、プロポフォールの最大投与速度が1200 ml/hの時に濃度を過小評価することが明らかとなった(なお、現在の商用TCIポンプの最大投与速度は1200 ml/hである)。つまり、就眠時のプロポフォール濃度が低く見積もられる場合があるということである。
* TCI:薬物動態モデルにより計算される予測濃度を一定に保つ投与方法。通常の薬剤持続投与は投与速度が一定であるため、濃度が一定になるとは限らない。TCIは日本の麻酔臨床において広く使われている。
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