研究課題/領域番号 |
23791734
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
児玉 光厳 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科専門課程, 助教 (00597528)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 麻酔 / 神経毒性 / 記憶学習 |
研究概要 |
近年まで麻酔薬による作用は可逆的であり遺伝子発現、蛋白発現には影響は及ぼさないと信じられてきた。しかし2003年にJevtovic-Todorovicらはラットを用い、通常の臨床で新生児、幼児に使用されている麻酔薬の混合でアポトーシスが起き、成長後の記名力障害が起きることを発表した。また2009年に我々のグループは吸入麻酔薬であるセボフルラン暴露が生後6日目のマウスの脳にアポトーシスを惹起し、成長後の記名力障害のみならず社会行動の異常を起こすことを発表した。また2009年にWilderらは人においても4歳までに複数回全身麻酔を行った者は成長後の学習障害を起こすことを報告している。現在、主に臨床使用されている吸入麻酔薬はセボフルラン、イソフルラン、デスフルランの三つである。最も近年に開発された麻酔薬であるデスフルランの幼若期の脳への毒性の報告はなかったため三種の吸入麻酔薬の等力価における幼若期の脳への毒性を比較した。 結果はデスフルランは他の二剤に比較し著しいアポトーシスを引き起こし、行動実験においては短期記憶の障害までも引き起こす事を発見した。この行動実験の結果を人間に当てはめる場合の一般的な解釈としては、若年性アルツハイマー病への関与の可能性を強く示唆しており、臨床上での乳幼児に対するデスフルランの使用法に大きな波紋を投げかける事となる。ちなみに長期記憶の障害に関しては三剤とも障害されておりその程度には有意差は認めなかった。上記の結果を"Anesthesiology"誌に投稿し、"Neonatal desflurane exposure induces more robust neuroapoptosis than do isoflurane and sevoflurane and impairs working memory."の表題で2011年11月号に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科研費交付期間中のおおまかな達成目標として以下の2つを掲げた。(1)臨床上一般的な吸入麻酔薬であるデスフルラン、セボフルラン、イソフルランの三剤の幼若脳神経への毒性の差を比較検討する。(2)ERK(extracellular signal-regulated kinase)経路を介して作用を発現させることが知られているバルプロ酸の本神経毒性に対する保護作用を検討する。(1)に対してはデスフルランは他の二剤に比較し著しいアポトーシスを引き起こし、行動実験においては短期記憶の障害までも引き起こす事を発見し、この結果を"Anesthesiology"誌に投稿し、"Neonatal desflurane exposure induces more robust neuroapoptosis than do isoflurane and sevoflurane and impairs working memory."の表題で2011年11月号に掲載し成果を収めることに成功した。(2)の達成目標に対しては、当初我々はバルプロ酸を用い保護作用を検討する計画を立てていたがJ. Umkaらが"Neuroscience"誌にバルプロ酸自体が成獣マウスの海馬神経細胞の神経新生を妨げ記憶障害を引き起こすとの報告を行い、本毒性のrescue drugとしては不適切であると考え、同様にERKのリン酸化を上昇させ作用することが知られているフラボノイドの一種であるフィセチンを用いその保護作用を検討中である。(1)に対しては論文への掲載を完了し、(2)に対しては現在研究が進行中で、科研費交付から一年を経過した段階の成果としては概ね順調な進展であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、臨床上での本毒性の被害(記憶障害、精神病発症率、社会適応障害、育児放棄、等)については大規模前向き試験にて調査中であるが、本毒性に対する臨床上の対応策は皆無であり、この毒性に対する臨床上実現可能な軽減策、軽減薬の確立は急務といえる。科研費交付申請時に掲げたようにERK(extracellular signal-regulated kinase)経路の賦活による本毒性に対する保護作用だけでなく、我々のグループは水素投与によりフリーラジカルが引き起こす酸化ストレス作用軽減を介して毒性を低下させる研究も進行中である。上述したフラボノイドの一種フィセチンは苺に大量に含まれることで知られており、また薬理作用としては脳神経細胞でのERKのリン酸化を促進させるのと同時に抗酸化ストレス作用も併せ持つと報告されており本毒性に対するresucue drugとして期待できると考えている。また食品含有物であるため臨床応用への手がかりとなるのではないかとの期待も持っている。我々はフィセチンの本毒性に対する保護作用を形態学的、行動学的に検討していく。 またJevtovic-Todorovicらが本毒性のメカニズムにミトコンドリアの障害が関与する可能性があると報告としており、Matthew Lらは幼若期の培養脳神経細胞においては麻酔薬投与によりBDNFの調節性が変化しアポトーシスを惹起すると報告している。未だ断片的ではあるがメカニズムの一部が明らかになり始めている。我々のグループでは麻酔暴露によるミトコンドリアの経時変化を調査し、将来的には培養細胞を用いメカニズムの解明に取り組んでいきたいと考えている。本毒性を有しない次世代の麻酔薬開発に繋がる報告を行なっていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本麻酔科学会第59回学術集会(神戸ポートピアホテル)交通費 30000円、宿泊 20000円American Society of Anesthesiologists 2012 交通費 100000円、宿泊 150000円実験動物 妊娠マウス 30匹 300000円、試薬 200000円、消耗品 200000円、合計1000000円
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