研究課題
血液型不適合移植では、ドナー臓器の血液型抗原とレシピエント血中の抗血液型抗体との抗体抗原反応を抑制するために、血漿交換、B細胞系免疫抑制剤との併用療法が行われているが、通常の腎移植よりも免疫抑制が強力なために顕在化する感染症および移植後の長期成績の若干の低下が問題となる。本研究では、移植腎の血液型抗原を減弱化することにより、拒絶反応を抑制する新たな治療法の開発を目的として、ファージディスプレイ法によりA/B型抗原に結合する7残基のペプチド配列(RPRNPNK)を同定し、ABO抗原標的ペプチド(Blood group antigen targeting peptide、BATP)と名付けた。ABO抗原に対するマスク効果を検討するため、BATPを用いたヒト赤血球凝集阻害試験、ELISAによる抗血液型抗体結合阻害試験を行った結果、BATPは、赤血球凝集および抗A/B型抗体の抗原ヘの結合を効果的に阻害した。またBATPの腎組織における阻害効果を検討するため免疫染色を行った結果、BATPによるブロッキングがヒトAおよびB型腎臓組織の腎糸球体、尿細管および腎毛細血管内皮上の血液型抗原への抗血液型抗体の結合を効果的に阻害した。これらの結果から、BATPが赤血球上および腎組織上のABO抗原を減弱化し、抗原抗体反応を抑制することが示された。これらの研究成果を第44回臨床腎移植学会、第99回日本泌尿器科学会、第84回日本生化学会など学会に発表し、臨床腎移植学会誌、腎移植症例集2011に発表した
2: おおむね順調に進展している
本年度の計画であるファージディスプレイ法による血液型糖鎖抗原結合ペプチド配列の同定、結合親和性の解析およびヒト腎組織血液型糖鎖抗原に対するペプチドのマスク効果(抗原抗体反応阻害効果)の検討を達成した。当初の計画どおりに研究計画が進展していると考える。
平成23年度に得られた結果を基にして、当初の予定通り、ペプチドのヒト腎血管における血栓予防効果および移植後の長期的投与を考慮した血栓予防ペプチドのマスク効果持続性、安定性の検証する。1 ヒト腎血管へのペプチド灌流によるペプチドの血栓予防効果の検証:ヒト腎臓全摘除術直後の腎血管にペプチド溶液を灌流した後に、摘出腎の血液型と異なる血液型の血液(例:摘出腎A型にB型血液)を灌流し、一定時間ごとに針生検し、ペプチドによる血栓予防効果について免疫組織化学的に検討する。2 血流下における腎血管内皮細胞への血栓予防ペプチドのマスク効果の検討 血流を模倣したシェアストレス下で培養したヒト腎血管由来の初代培養血管内皮細胞に蛍光ラベルしたペプチドを添加し、細胞表面の血液型糖鎖抗原のマスク効果について経時的に解析し、ペプチドの安定性について検討する。
腎血管由来の初代培養内皮細胞上の血液型糖鎖抗原へのペプチドの結合試験および腎組織中の血管におけるペプチドの血栓予防効果の判定試験を頻回に行う。また、ヒトの各血液型における血液型糖鎖抗原の分布を免疫組織化学的に解析する。そのため、ペプチドの受託合成および細胞培養に使用する器具、培地、免疫組織化学染色に使用する抗体などが研究費の主な使途になる。 また腎移植および泌尿器科系の国内学会発表、米国糖鎖生物学会あるいは、米国泌尿器科学会における海外学会発表とそれに伴う海外研究協力者との研究打ち合わせ(進捗状況の報告等)が主な旅費の使途になる。
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