排尿行動は、まず膀胱内の尿貯留を知覚することから始まる。すなわち、尿意である。尿貯留に伴って、膀胱の壁が伸展すると、膀胱上皮に存在する機械/化学受容器(尿意センサー)が活性化し、末梢神経にシグナルを伝えることで尿意が起こると考えられている。 既知の尿意センサーには、1.カルシウムイオンチャネルであり、2.酸感受性がある、という共通点があるが、我々はこれらのチャネ ル全てを抑制した状態で膀胱上皮細胞に酸刺激を与えてみたところ、pH<5の酸刺激で細胞内のカルシウム濃度が上昇し、この現象はカルシウムイオンチャネルを介した細胞外からのカルシウム流入によることが分かった。こうした結果は既知の尿意センサーと特徴が酷似した、未だ同定されていない新規尿意センサーの存在を示唆するものである。これらの背景から、本研究は新規尿意センサー遺伝子のクローニングを第一の目標とし、研究を開始した。発現クローニングに先立って、まず膀胱上皮細胞における酸応答機構の詳細な検討を行った結果、 1.既知の酸感受性のイオンチャネルであるASICファミリーの膀胱上皮細胞における発現を分子生物学的、組織学的手法を用いて検証したが、どのチャネルの発現も認められなかった。 2.膀胱上皮細胞で観察される酸応答は、他組織においても同じように見られるのかを食道上皮細胞を用いて観察したところ、食道上皮細胞ではpH<3の酸刺激で細胞内カルシウムストアを介したカルシウムシグナルが認められ、膀胱上皮細胞の応答機構は組織特異的なものである可能性が示唆された。しかしながら今回の研究期間において発現クローニング法を用いた探索で新規尿意センサー候補のイオンチャネルを単離するには至らなかった。強制発現に用いた細胞株自身が酸応答をしたり、蛍光試薬に体する酸の影響が大きな問題となった。
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