研究課題/領域番号 |
23791771
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
高田 麻沙 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (60468254)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 医学 / 神経解剖学 |
研究概要 |
神経トレーサーを用いてラットの皮膚の知覚神経回路及び膀胱の知覚神経回路の走行経路を標識し明らかにすることを目的として、神経トレーサーによる二重標識の手法の確立と、皮膚及び膀胱の神経回路の特徴についての検討を行った。Fast Blue、Alexa cholera toxin B conjugated、wheat germ agglutinin(WGA)などをつかった検討の結果、Fast Blue、Alexa cholera toxin B conjugatedの組み合わせによる二重標識法が最も優れているとの結論を得た。上記組み合わせを用いた膀胱と皮膚の知覚神経の二重染色によって、後根神経節内での2者の分布を観察した結果、膀胱を支配する神経細胞体は主にL6-S1由来であることが確認され、さらに、わずかではあるが一部が皮膚と膀胱に同時に軸索を投射している二分岐軸索を持つ神経細胞であることが確認された。 このことは、膀胱知覚と皮膚知覚の一部が中枢(脳)のレベルで区別の付かない知覚入力として認識されている可能性を示唆する。同時に、皮膚への刺激が排尿機能へ影響を与える可能性、たとえば、冷環境で頻尿が誘発されるような現象を解剖学的に説明する事ができる可能性を示唆するものである。 さらに我々は、同定された二分岐軸索をもつ神経細胞体のサイズ分布を検討した。その結果、膀胱と皮膚を同時に支配する二分岐軸索は主に小型細胞からなり、このことはこの神経が主に冷痛覚を司るC線維を投射する神経であることを示し、膀胱痛が下腹痛として認識される、また、冷覚が尿意を誘発すると言った現象の裏付けになる物であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膀胱を支配する知覚神経および皮膚を支配する知覚神経の回路を蛍光標識することによって、皮膚・膀胱を支配する知覚神経の特徴を明らかにすることを目的の第一段階として設定していた。神経トレーサーによる二重標識の手法の確立と、皮膚及び膀胱の神経回路の特徴についての検討を行った結果として、Fast Blue、Alexa cholera toxin B conjugatedの組み合わせによる二重標識法が最も優れているとの結論を得た。上記組み合わせを用いた膀胱と皮膚の知覚神経の二重染色によって、後根神経節内での2者の分布を観察した結果、膀胱を支配する神経細胞体は主にL6-S1由来であることが確認され、さらに、わずかではあるが一部が皮膚と膀胱に同時に軸索を投射している二分岐軸索を持つ神経細胞であることが形態学的に確認された。 さらに我々は、同定された二分岐軸索をもつ神経細胞体のサイズ分布を検討した。その結果、膀胱と皮膚を同時に支配する二分岐軸索は主に小型細胞からなることを明らかにした。このことはこの神経が主に冷痛覚を司るC線維を投射する神経であることを示している。これらの結果は、膀胱痛が下腹痛として認識される、また、冷覚が尿意を誘発すると言った現象の裏付けになる物であると考えられた。 寒冷刺激が尿意切迫感を誘発する可能性にせまる新たな神経回路を同定することができたと考え、このことから、研究の目的の達成度は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 知覚神経上の機械受容体・温度受容体の発現分布を見る。前年度に得られた知覚神経の知見について、その知覚神経がどのような刺激に対して応答する特徴を備えているかをさらに実験・検証する。具体的には、蛍光抗体法もしくはin situ hybridizationの手法を用いて、前述した既知の知覚に関与することが過去に報告されているレセプターファミリー(TRPファミリー、ASICファミリー、Piazo1,2、Trekなど)について、神経トレーサーで標識した後に組織を再度標識し、3重染色を行ってそれぞれの神経がもつ特徴を明らかにする。2. 体性知覚神経が膀胱機能に与える影響の生理学的な機能解析を行う。膀胱及び皮膚を支配する知覚神経回路がいずれかの部位で収束することを証明した後、皮膚刺激と膀胱知覚・膀胱の排尿活動の機能的な関連の証明を行う。証明された発現レセプターについて、そのアゴニスト及びアンタゴニストをウレタン麻酔下に膀胱との関連のある皮膚領域へ注射し、膀胱を支配する知覚神経とは無関係の皮膚領域へ注射する群をコントロールとして、排尿頻度・排尿量の変化や、膀胱内圧測定の変化が見られるかどうかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度までに得られた研究成果について、学会発表、論文作成を行うにあたり、学会参加費、英文添削、別刷り費用などの使用を予定する。さらに、次年度に上記研究計画を実行するにあたって、二分岐軸索を標識した標本を得るため、逆行性神経トレーサー、実験動物本体、麻酔薬、実験動物飼育費、ディスポーザブルの手術器具(針、糸など)、ホルマリン等を追加購入する。神経細胞体の特徴を知るため、各種の抗体(TRPファミリー、ASICファミリー、Piazo1,2、Trekなどに対する抗体)を購入する。必要に応じてin situ hybridizationを行うためのプローブを作製するため、大腸菌とその培地、PCR試薬、プラスミド、RI試薬、スライドガラス、感光乳剤などを購入する。膀胱及び皮膚を支配する知覚神経回路がいずれかの部位で収束することを証明した後、皮膚刺激と膀胱知覚・膀胱の排尿活動の機能的な関連の証明を行うため、証明された発現レセプターについて、そのアゴニスト及びアンタゴニストを麻酔下に膀胱との関連のある皮膚領域へ注射し、膀胱を支配する知覚神経とは無関係の皮膚領域へ注射する群をコントロールとして、排尿頻度・排尿量の変化や、膀胱内圧測定の変化が見られるかどうかを検討する。このため、上記レセプターに対する各種薬剤、ウレタン麻酔、実験動物とその維持費などに研究費を使用する。
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